昨年の夏休みに、コペンハーゲンから電車で西へ約20分の小さな町にある野外考古学センターを子どもたちといっしょに訪れた。
ここは、考古学の研究所なのだが、一般の人への教育、啓蒙活動もやっている。その方法は、ひと口にいえば、参加型、体験型ということになろうか。いかにもデンマーク的で、ユニークだ。
昔ながらの景観を残した広い敷地に、復元された石器時代の村や鉄器時代の村、1850年代の農家、ワークショップなどが点在している。
入り口で「子どもがたのしいのはここ」と教えてもらって行った「谷」では、大きな石のわきに座り込んで、丸い石でひたすら麦をすりつぶしている人たちがいた。粉になった麦は、木のボウルに集める。水を少し加えて鉄板の上で焼くと、「鉄器時代クッキー」ができる。こうばしくて、なかなかおいしかった。
麦のありかや、すりつぶすこつ、クッキーの焼き方は、観光客どうしで教え合う。昔風の衣装を着た研究者もいるのだが、のんびりがちょうを追ったり、柵を直したりしていて、こちらからたずねないかぎり話しかけてこない。
その近くには、 鉄器時代のものを復元したおのが数本、ぽんとおいてあり、丸太割りに挑戦できる。凶器にもなるものだが、とくに監視はしていない。
池には丸木舟が3そう浮かんでいる。池のはしに杭が3本あり、そこに救命胴着がたくさんぶらさがっている。
救命胴着には、それぞれマジックで「35〜45kg」「80〜100kg」などと書いてある。自分の体重に合ったものを選んで身につけ、待っていると、漕いでいる人たちがそれを見て「そろそろ戻るころあいかな」と、帰ってきて、交代する。ここも、時間制限もなければ、危険のないように見ている人もいない。
この谷には、説明をかいた立て札もみあたらない。来た人が自分でやり方を見つけ、たのしみ、お互いに伝え合うようになっている。
鉄器時代の村と、1850年代の村には、家族が1週間単位で泊まれる。無料だが、条件がある。当時の衣装を身につけ、当時の生活をすること。研究者にその生活の報告をすること。観光客に「昔の生活」体験を伝えること。
まず、鉄器時代の村に行った。日本の「たて穴式住居」のような建物が並んでいる。その一つに入ってみた。
暗い室内、動物の毛皮を敷いた「ベッド」の上に、毛布のようなものを着た子どもたちが3人座っていた。「ここは、どう?」と聞くと「たーのしい!!」という声が返ってくる。住居の外にはやはり毛布のような衣装を着た大人たち。研究者から「つぎの仕事」の説明を受けている。水汲みだろう、湖の方から天秤棒のようなものをかついでくるおじさんともすれちがったが、ふうふうと苦しそうにしていたので声をかけそびれてしまった。
1850年代の農家のほうには、老夫婦とその娘一家が泊まっていた。おばあちゃまは、「ミルクをしぼって、バターづくりに半日、チーズづくりに半日、パン焼きに一日、洗濯に半日。こういう生活は、1週間が限度だわ」とため息をつく。お母さんのほうも「塩漬けブタちょっぴりにじゃがいもとおかゆ。チーズはまあいけるけど、牛乳は自然すぎるっていうか、牛のにおいがして、子どもがいやがるし、お皿洗いもたいへん」と、現代人が見た150年前の農家の暮らしを伝えてくれた。
この農家自体も、失業中の若者たちが、ベテランの大工の指導を受けながら、当時の手法で作ったものだそうだ。
時間がたりなくて、石器時代の村の方には行くことができなかったが、こちらでも観光客と研究者がいっしょになって、当時のやり方で大きな石を引っぱってなにかモニュメントをつくる作業をしていたようだった。
できあがった知識をただ教わるのではなく、自分のからだを使って昔を体験するのは、ほんとうにたのしかった。また、研究者からの一方通行ではなく、研究者と一般の人、一般の人どうしで体験を共有し、お互いに学び合うことで、研究自体も地に付いた実証的なものになるのではないか、と感じた。
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