「我々は、17世紀に国民国家が興ってこのかた、最高のチャンスを手にしている。
それは、大きな力を持つ国々が、戦争の準備をする代わりに、平和のうちに競い合うような世界を築くためのチャンスだ。」
アメリカは、自由を好む勢力の均衡を推し進めようとし、またそれができる国々との可能なかぎり広範囲な連合を組織することによって、その戦略を実行する。
連合のリーダーシップを効果的にとるためには、優先順位を明確にし、他国の利益を評価し、謙譲の精神でパートナーたちと継続して協議することが必要だ。
合衆国は、カナダやヨーロッパにおける同盟国および友好国の持続的な協力なくしては、世界で永続する成果をあげることができない。
ヨーロッパには、世界でもっとも強く、もっとも有力な国際機関が2つある。
NATO(北大西洋条約機構):これは、発足当初から、大西洋両岸の国々とヨーロッパ域内の安全保障の支柱となってきた。
EU (欧州連合):世界貿易を開放していく上でのわれわれのパートナーだ。
9・11の攻撃は、NATOに対する攻撃でもあった。初めて北大西洋条約第V条の自衛条項を発動した際に、NATO自らがそのことを認めている。大西洋両岸の民主主義国家の同盟による集団的防衛という、NATOの中核的な使命は変わらない。しかし、その使命を新しい状況のもとで果たすために、NATOは新しい構造と戦闘能力を開発しなくてはならない。 NATOは、いずれの加盟国に対する脅威にも必要に応じていつでも対処できるように、高い機動力を持つ特殊訓練部隊を即時に展開できる能力を持たねばならない。
この同盟関係は、我々の利益が脅かされるならば、それがいかなるところであっても行動できなければならない。任務別の連帯に貢献するだけでなく、NATO のもともとの権限のもとであらたな連帯を創り出しながら。
このことを実現するために、我々は以下のことをしなくてはならない。
もしNATOがこのような変革を行うことに成功するならば、その報酬として、冷戦時代と同じように、加盟国の安全と利益のために中心的な役割を果たすような協力関係をつくりだすことができるだろう。 我々は、我々の社会に対する脅威に対して共通の見方を維持し、我々の国家と国益を守るために共通の行動をとる能力を高める。 同時に、我々は、EUとしてのより大きな外交政策と防衛のアイデンティティをつくりだそうとするヨーロッパの同盟国の努力を歓迎する。そして、こうした発展が確実にNATOと協調して行われるように、緊密な協議を行うことを約束する。我々は、大西洋両岸の民主主義国家の仲間が将来の課題によりよく備えるための、このような好機を逃すことはできない。
9・11の攻撃は、アメリカのアジアでの同盟関係を活性化させた。 オーストラリアは アンザス条約を発動させ、9・11はオーストラリア自身への攻撃だと宣言した。その宣言にひき続いて、世界でも最強の軍隊の一部を「不朽の自由」作戦に派遣するという歴史的な決断を下した。 日本と韓国は、テロリストの攻撃から数週間以内に、前代未聞の規模の兵站支援をおこなった。 我々は、同盟のパートナーであるタイやフィリピンと反テロリズムの協力関係を深めた。また、親しい友好国であるシンガポールやニュージーランドからはかけがえのない支援を受けている。
テロに対する戦いは、アメリカのアジアにおける同盟関係が地域の平和と安定を支えるだけでなく、フレキシブルで、新たな課題にいつでも対処することができることを示した。我々のアジアにおける同盟関係と友好関係を高めるために、我々は
我々は、大国間の競争という古いパターンを一新する可能性に注意を払っている。大国になりうるいくつかの国が、現在国内での変換期の最中である。その中で特に重要なのはロシア、インド、中国である。この三国すべてにおける最近の動きは、基本的な原則に関して真に世界的な同意がゆっくりと形をとりつつあるという我々の期待を強めてくれる。
ロシアに関しては、我々はすでに21世紀の中心的な現実に基づく新しい戦略的関係を築きつつある。合衆国とロシアはもはや戦略上の敵国ではない。「戦略核兵器の削減に関するモスクワ条約」は、この新しい現実を示す象徴であり、ロシアの考え方の重要な変化を反映している。その変化は、ヨーロッパ―大西洋共同体と合衆国との建設的で長期にわたる関係をもたらすことを約束するものだ。ロシアの最高指導者たちは、自分たちの国の現在の弱点に対して現実的な評価を下しており、これらの弱点を克服するために必要な国内政策と対外政策を持っている。彼らは、冷戦時代のアプローチが彼らの国益にとって役に立たないことや、ロシアとアメリカの戦略上の利益が多くの分野で重なり合うことを、ますます理解するようになってきている。
合衆国の政策は、このようなロシアの考え方の転換を利用して、今起こりつつあり、また、将来生まれる可能性のある共通の利益と課題についての我々の関係に焦点を当てなおそうとしている。我々は、テロに対する世界的な戦いにおける、すでに広範囲なものとなっている協力をさらにひろげようとしている。我々は、有益な二国間貿易と投資の関係を促進するために、受け入れ基準を下げることなくロシアが世界貿易機関に加入できるよう後押ししている。我々は、ロシア、ヨーロッパの同盟国と我々の間の安全保障協力をさらに深める目標をかかげてNATO−ロシア会議を創設した。 我々は旧ソビエト連邦の国々の独立と安定を引き続き支持する。それは、周囲の国々の繁栄と安定が、ヨーロッパ―大西洋共同体への統合へロシアが向かう勢いを増すという信念による。
同時に、我々は、我々とロシアを今なお隔てる相違点および恒久的な戦略的パートナーシップを打ち建てるまでにかかる時間と労力に関して、現実的である。我々の動機と政策に対し、ロシアの重要なエリートたちのなかに依然として残る不信感が、互いの関係改善を遅らせている。自由市場民主主義の基本的価値に対するロシアのむらのあるかかわりかたや、大量破壊兵器の拡散との闘いにおける疑わしい記録は、重大な懸念事項として残っている。まさしくこのロシアの弱点が協力の機会を制限している。とはいえ、現在こうした機会は最近、いや、この数十年間に比べても非常に大きい。
合衆国は、インドとの2国間関係の変革を企ててきた。それは、合衆国の国益にとってインドとの強力な関係が必要であるとの確信に基づいたものだ。 我々は、二つの最も大きな民主主義国家であり、代議制の政府によって守られる政治的自由に関わってきた。 また、インドはさらに大きな経済的自由に向かって動きつつある。 我々は自由な商取引において共通の利益を持つ。そのなかには、きわめて重要なインド洋の海上交通輸送路を通るものも含んでいる。 最後に、我々は、テロと闘い戦略的に安定したアジアを創り出すことに関し、利益をともにしている。
インドの核およびミサイル計画の発展や経済改革のペースに関することを含め、相違点は依然として残っている。しかし、以前であれば、こうした懸念が我々のインドに対する見解を支配したであろうけれども、今日我々はインドを戦略上共通の利益を持つ、成長しつつある世界の大国とみなしはじめている。インドとの強力な協力関係を通して、我々はいかなる相違点にも最善の対応をし、力強い未来をかたちづくることができる。
合衆国と中国との関係は、アジアー太平洋地域の安定と平和と繁栄を推進するための我々の戦略において重要な要素だ。我々は、強くて平和的で繁栄する中国の出現を歓迎する。中国における民主主義の発展は中国の将来にとってきわめて重要である。しかしながら、共産主義の遺産の最悪の特色を脱ぎ捨てる過程が始まってから四半世紀が経ったが、中国の指導者たちはまだ国家の性格に関してこれに続く一連の基本的な選択をするに至っていない。アジアー太平洋地域の近隣諸国を脅かしかねない軍事力の増強を追求することで、中国は時代遅れの道を取ろうとしている。これは、結局は、中国が求めている、国家を偉大にすることを妨げるだろう。やがて、中国も、社会的、政治的自由が国家の偉大さの唯一の源泉であることに気づくだろう。
合衆国は、変貌する中国との建設的な関係を捜し求めている。現在のテロに対する戦いや、朝鮮半島の安定化を推進することを含む、互いの利益が重なる領域では、すでにじゅうぶんに協力している。同様に、我々はアフガニスタンの将来に関して協調してきた。また、反テロリズムや同様の過渡期における懸念に関して包括的な対話をはじめた。 HIV/エイズの蔓延のように、共通の保健および環境上の脅威は、それぞれの市民の福利厚生を連帯して推進するよう、我々に求めている。
こうした国家を超えた脅威は、中国に、もっと情報公開をし、市民社会の発展を促進し、個人の基本的人権を強めるように迫っている。中国は、多くの個人的な自由を認めたり、村レベルでの選挙を行うなど、政治的な解放への道をとり始めている。しかし、まだなお共産党による一党支配国家に強く傾斜している。この国を、市民の必要と願望に真に責任を持つような国にするために、なされるべきことはまだまだ多い。中国の人々が自由に考え、集まり、信仰することが許されることによってのみ、中国はその可能性をじゅうぶんに発揮することができる。
我々の重要な貿易関係は、中国が世界貿易機関に加入することによって利益を受ける。このことによって、輸出の機会がさらに増え、最終的にアメリカの農民や労働者や会社はさらに多くの仕事を得ることになる。中国は我々の4番目に大きな貿易の相手であり、年間の双方の貿易額は1000億ドル以上にのぼる。市場原理の力と、世界貿易機関が求める透明性と責任とが、中国において開放性と法の支配を進めるだろう。そしてそれは、通商と市民の基本的な保護を確立することを助けるだろう。しかしながら、他の分野では、我々の意見は大きく食い違っている。台湾関係法のもとで、我々が台湾の自衛に関わっていることはその一つである。もう一つ、人権問題もある。我々は、中国が、核拡散防止に関する約束を実行することを期待している。我々は、意見の食い違いがある分野ではへだたりを狭め、その分野で意見が相違していることが、合意している分野での協力を妨げることのないようにする。
9.11の事件は、合衆国と他の主要な世界的勢力の中心との関係の状況を根本的に変え、とてつもなく大きな、新しい機会を開いた。ヨーロッパとアジアにおける長年の我々の同盟国と、また、ロシアやインドや中国の指導者たちと、我々は積極的な協力計画を開発しなくてはならない。こうした関係が型にはまり、非生産的なものになることがないように。
合衆国のすべての機関はこの課題を共に負っている。我々は、協議、おだやかな議論、冷静な分析、共通の行動という、実り豊かな習慣を築くことができる。長い目でみると、こうしたことは、我々の共通原則の優位性を維持し、進歩の道を開きつづけるであろう実践なのだ。