合衆国の国家安全保障戦略
(ブッシュドクトリン)
2002年9月
Z.社会の開放及び民主主義の基礎構築による
発展の輪を拡大する
「第二次世界大戦では、我々は、世界をより安全にするために戦い、その後は世界を
再建するために働いた。今日、テロから世界を安全に保つための戦いを行うとき、
我々は、世界をすべての市民にとってより良い場所にするためにも働かなくてはならない。」
ブッシュ大統領
ワシントンD.C.(米州開発銀行)にて
2002年3月14日
一部の人々が快適に豊かに暮らす一方で、人類の半数が1日2ドル未満で暮らしている
ような世界は、公正でもなければ、安定してもいない。
拡大しつづける発展と機会の輪に世界の貧しい人々すべてを含めることは、
合衆国の外交政策の、道徳上の義務であり、最優先事項の1つでもある。
数十年にわたる多額な開発援助は、最も貧しい国々の経済成長に拍車をかけることに
失敗した。さらに悪いことには、開発援助は、改革へ向かう強制力を弱め、窮状を
永続させることによって、しばしば失敗した政策を支える役割を果たしてしまった。
一般的に、援助の成果は援助提供者によって使われたドルの額で評価されており、
援助の受け手が達成した成長率や貧困削減率では評価されていない。これらは、戦略の
失敗を指し示すものである。
合衆国は他の国々と協力してこの失敗に立ち向かっている。
我々は、モンテレー(メキシコの都市)でおこなわれた「開発のための融資に関する国連会議
(the U.N. Conference on Financing for Development)」において新しいコンセンサ
スを創り出した。それは、援助の目的およびその目的を達成するための戦略を変えねばならない
というコンセンサスである。
当政権の目標は、すべての国において、個人の潜在的な生産力を引き出すのを
助けることである。持続可能な成長と貧困削減は、正しい国家政策がなければ不可能であ
る。我々は、政府が本当の政策変更を実行したところでは、重要で新しいレベルの援
助を提供する。合衆国とその他の先進国は、野心的で明確な達成目標、すなわち、
10年以内に世界の最貧国の経済規模を倍にする、という達成目標を設定すべきである。
合衆国政府は、この目標を達成するために、以下の主要な戦略を遂行する。
-
国政改革の難題に対処した国々を援助するために資源を提供する。
我々は、合衆国が提供する中核的開発援助を50パーセント増額することを提案する。
ニーズのみに基づく人道的援助も含めた現在の我々の計画を継続する一方で、
政府が公正に統治し、自国民に投資し、経済的自由を促進する国々における計画のための
「新ミレニアム・チャレンジ口座(a new Millennium Challenge Account)」に、新たに
数十億ドルがあてられる。各国政府は、腐敗と戦い、基本的人権を尊重し、法の支配を
受け入れ、保健と教育に投資し、責任ある経済政策に従い、起業家精神を可能にしなけ
ればならない。この新ミレニアム・チャレンジ口座は、本当の政策変更をやってみせた
国々に報い、改革を遂行しない国々に対しては挑戦をするものである。
- 生活水準を向上させるため、世界銀行や他の開発銀行の有効性を改善する。
合衆国は、世界銀行やその他の多国間の開発銀行が、世界中の貧しい
人々の生活を改善することをいっそう効果的にする包括的な改革計画に関与して
いる。我々は、合衆国の分担金の下降傾向を逆転させ、最も貧しい国々のための
世界銀行の基金である「国際開発機構(the International Development Association; IDA)」、
及び「アフリカ開発基金(the African Development Fund)」への分担金を18パー
セント増額することを提案している。世界中で生活水準を向上させ、貧困を削減する
鍵は、生産性の向上、それも、特に、最も貧しい国々における生産性の向上である。
我々は、多国間開発銀行に対して、経済生産性を高めるような活動に焦点をおくように、
引き続き圧力をかける。こうした活動とは、教育、保健衛生、法の支配、民間部門の開発
などを改善する活動である。
すべてのプロジェクト、すべての貸付、すべての無償供与は、それがどのくらい発展途上国
の生産性を向上させるかによって評価されなくてはならない。
- 開発援助が、世界の貧しい人々の人生に対し本当に違いを生むということを確実にするため、測定可能な結果を強く求める。
経済発展に関して本当に重要なことは、より多くの子どもがより良い教育を受
けるようになったか、より多くの人々が医療と清潔な水を利用できるようになったか、
あるいは、より多くの労働者が彼らの家庭のよりよい未来のために仕事を得られるよう
になったか、ということである。
我々は、開発援助がそのような結果をもたらしたか否かによって、我々の開発
援助の成功を測る道徳上の義務を負っている。そのため、我々は、多国間開発銀行から
の援助ばかりでなく、我々自身の開発援助も、測定可能な目標と目標へ到達するための
具体的な判断基準を持つよう、要求しつづける。
合衆国が指導的役割を果たしたおかげで、最近のIDA(国際開発機構)の補給協定は、
被援助国の進歩を測る監視と評価のシステムを確立する。援助提供者は、初めて、
彼らのIDAへの分担金を、本当の発展の成果に結びつけることができる。そして、合衆国
の分担金の一部も、このようにして成果と結びつけられている。
我々は、成果に焦点をおくことが世界銀行や他の多国間開発銀行が行うすべての業務に
おいて不可欠な要素となるように、世界銀行や他の多国間開発銀行がこの進歩をさらに
続けることを確実にするため、奮闘努力する。
- 貸付金ではなく、無償供与の形で提供する開発援助を増額する。
成果に基づく無償供与を増やすことは、増加の一途をたどる負債という
重荷を負わせることなしに、貧しい国々が、特に社会部門で、生産的な投資を行うのを
援助するのに最もよい方法である。合衆国の指導力の結果として、最近の国際
開発機構(IDA)協定は、教育、HIV/エイズ、健康、栄養、水、衛生、及びその他人間に
必要なものに関し、最も貧しい国々への無償供与の著しい増額を規定した。
我々の目標は、他の多国間開発銀行の無償供与の使用の増
加によって、この進歩を促進することである。また、我々は、大学や非営利部門、民
間部門にも、成果が見える開発プロジェクトを支援する無償供与を使用することによ
り、政府の活動と一致するよう要求する。
- 社会を、商業と投資に解放する。
貿易と投資は、経済成長の真の推進力である。たとえ政府援助が増額されたに
しても、開発のための資金の大半は、貿易や、国内資本および外国からの投資から
得なくてはならない。その上、効果的な戦略のためには、こうした資金の流れれを
拡張するよう努めねばならない。自由市場と自由貿易は、我が国の国家安全保障戦略
の主要な優先事項である。
- 公衆衛生を確保する。
貧しい国々における公衆衛生の危機の規模は桁外れに大きい。HIV/エイズやマラリ
ア、結核のような流行病や全国的伝染病に悩まされる国々では、これらの災いが抑え
込まれないかぎり、成長と発展がおびやかされるだろう。先進国からの資金は必要であ
るが、その資金は、予防計画を支え、地元のインフラを効果的に用意した誠実な統治
とともにあるときのみ有効だろう。合衆国は、コフィ・アナン国連事務総長
によって組織されたHIV/エイズのための新たなグローバル・ファンドと、このファンドが
予防を治療と看護に対する幅広い戦略と連携させることに焦点をあてていることを、
強く支持してきた。
合衆国は、既に、そのような活動に対して、2番目の寄付者に比べて倍以上の金額を
提供している。もしこのグローバル・ファンドが期待に明確に応えるならば、
我々は、さらに多くの(金額を)提供する用意がある。
- 教育に力を入れる。
読み書きする能力と知識は、民主主義と発展の基礎である。世界銀行の資金の
わずか約7%しか教育に充てられていない。この割合は大きくなるべきである。
合衆国は、アフリカにおける基礎教育の改善と教師養成の改善に重点をおいて、
教育援助のための我々の資金援助を少なくとも20%増やす。合衆国は、また、こうした
社会に情報技術をもたらすことができる。このような社会の教育制度の多くは
HIV/エイズによって荒廃させられているのだ。
- 農業開発の援助を継続する。
バイオテクノロジーを含む新しい技術には、よりわずかな殺虫剤とより少ない水を使用
しながら開発途上国の作物産出量を改善する、ずば抜けた可能性がある。合衆国は、
適切な科学を使って、今なお飢えと栄養失調に苦しむ3億人の子供を含む8億人の
人々に、このような恩恵をもたらすのを助けるべきである。
目次||
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