合衆国の国家安全保障戦略
(ブッシュドクトリン)
2002年9月
Y.自由市場及び自由貿易によって
世界経済成長の新時代を開く
「国家が市場を閉ざし、機会が一部の特権的な国家によって独占されていれば、どれだけの開発援助があっても足りないのだ。国家が国民を尊重し、市場を開放し、保健や教育の向上のために投資すれば、援助の1ドル、そして貿易収入や国内資本の1ドルがより有効に利用されるのである。」
ブッシュ大統領
メキシコ、モントレーにて
2002年3月22日
強い世界経済は世界中の国や地域に繁栄と自由を促すことで、わが国の安全性を強化する。自由貿易及び自由市場によって支えられる経済成長は新しい雇用を創出し、収入増をもたらす。経済成長によって人々は貧困から抜け出して生活水準を高めることができ、経済的・法的な改革や腐敗との闘いは促進され、さらに自由という状態が強化される。
我々は経済成長と経済的自由をアメリカの国内にとどまることなく推進していく。あらゆる政府は自国の経済政策を策定し、自国の経済的課題に対応する責任がある。我々は他国との経済的提携を利用することでより高い生産性や以下のような持続的経済成長を生む政策の利点を強調していく。
- 投資や革新、企業活動を奨励するための、経済成長を促す法律及び規定に関する政策
- 労働と投資へのインセンティブを高める税政策、特に限界税率を下げること。
- 人々が経済活動の成果を安心して享受できるよう、腐敗に対する不寛容と法の支配
- 資本の最も有効な運用を可能にする強力な金融システム
- 企業活動を支える健全な財政システム
- 労働者および国民全体の福利を改善し、技術を向上させるための保健及び教育への投資
- 成長への新たな手段を提供し、生産性と雇用機会を増加させる技術と思想の普及を促進する自由貿易
歴史の教訓は明らかである。政府が大きく介入する統制経済ではなく、市場経済が繁栄を促し貧困を削減する最善の方法である。市場のインセンティブと市場体制をさらに強化する政策が産業国、新興成長市場、発展途上世界などのあらゆる経済とって必要なのである。
ヨーロッパと日本が強力な経済成長へと復帰することは、合衆国の国家安全保障上の利益にとって極めて重要である。我々は自国のために、世界経済のために、そして世界の安全保障のために、同盟国が強い経済力を保有することを望む。経済における構造的な障壁を取り除こうとする欧州諸国の努力はこの点において特に重要である。そして日本がデフレを終わらせ、日本の金融機関における不良債権問題へ取り組むという努力も同様に重要である。我が国は日本や欧州諸国が自国の経済の成長を促し、世界経済のより大きな成長を支えるために採択している政策について検討するために、7カ国蔵相会議などを通して、これら諸国との定期的な協議を有効に活用していく。
新興成長市場の安定性を高めていくことも世界経済の成長にとっての鍵である。新興成長市場における経済の潜在的生産能力を拡大するには投資資本の国際的な流入が必要である。投資資本の流入によって、新興成長市場や発展途上国は投資をおこなうことができ、それによって生活水準が上がり、貧困削減へとつながるのである。我が国の長期目標は、あらゆる国が投資対象信用格付けを有し、それによって国際資本市場へのアクセスや将来の投資が可能となる、そのような世界築くことである。
我が国は新興成長市場がより少ないコストでより大きな資本流入へアクセス可能となるような政策を支援する。この目的を達するために、我が国は金融市場における不安定性を減じるための改革を引き続きおこなう。金融危機の防止と、それが発生した際のより効果的な解決策を求めて今年度はじめに協議策定された「G7行動計画」(G−7 Action Plan)を実行に移すため、他国や、国際通貨基金(IMF)、民間金融機関と積極的に協力していく。
金融危機に対処する最良の方法はその発生を防ぐことである。そして我が国は国際通貨基金がまさにそれに取り組むことを奨励してきた。我が国は貸付のための政策条件を簡素化し、健全財政主義、為替相場主義、金融部門主義を通しての経済成長を達成することを貸し付け戦略の焦点にしていくために、国際通貨基金と引き続き協力していく。
「自由貿易」という概念は経済学の支柱となる以前に道義として生じたものである。人が何かを作り、それに他人が価値を見出すなら、その人にそれを売ることができてしかるべきである。そして他人が何かを作り、自分がそれに価値を見出したなら、自分はそれを買うことができてしかるべきである。これが真の自由、個人あるいは国家が生計を営むための自由である。自由貿易を促進するために、合衆国は以下の包括的な戦略を開発した。
- 世界のイニシアチブをつかむこと。我が国が2001年の11月にドーハでの幕開けに尽力した新しい世界貿易交渉は、2005年の妥結を目指し、とりわけ農業、製造業、サービス業の分野で大きな望みを持つアジェンダとなるだろう。合衆国は世界貿易機関(WTO)への中国及び民主的台湾の加盟を先導した。また、ロシアの世界貿易機関への加盟準備を支援していく。
- 地域的イニシアチブを敢行する。合衆国と西欧の民主主義諸国は2005年の達成を目標として「米州自由貿易圏」(the Free Trade Area of the Americas)を新設することに同意している。本年度合衆国は、農業、工業製品、サービス、投資、政府調達を目標として提携諸国との市場アクセス交渉を提唱していく。我々はさらに「アフリカ成長機会法」(the African Growth and Opportunity Act)で認められている優先権を最大限に利用することからはじめて、自由貿易へと導き、最も貧しい大陸であるアフリカにより多くの機会を提供する。
- 二国間自由貿易協定を前進させる。2001年に発効したヨルダンとの自由貿易協定に加え、本年度合衆国政府はチリとシンガポールとの自由貿易協定合意に向けて取り組む。我が国の目的は、先進国と発展途上国の混在する世界のあらゆる地域の国と自由貿易協定を締結することである。当面は中央アメリカ、南アフリカ、モロッコ、オーストラリアが主要な焦点となるだろう。
- 政府・議会とのパートナーシップを刷新する。すべての政権の通商戦略の成否は常に議会との生産的な連携にかかっている。8年の空白期間を経て、2002年の貿易法に基づき貿易促進権限法や発展途上国へのその他の市場開放政策を通過させることにより、当政権は議会の過半数の貿易自由化への支持を回復させた。当政権は下院と協力することで、近年通過した貿易促進権限法のもとに、新しい二国間貿易協定、地域的貿易協定、世界貿易協定を成立させる。
- 貿易と開発の間の関係を発展させる。貿易政策によって発展途上国は財産権、競争、法の支配、投資、知識の普及、開かれた社会、資源の効率的配分、地域統合などを強化することができ、そしてこれらのすべてが発展途上国に成長、機会、自信をもたらすのである。合衆国は、サブサハラアフリカの35の国々で生産される商品のほぼすべてを市場に参入させるためにアフリカ成長機会法を施行している。我々はこの法をより有効に活用し、またこれに対応するカリブ海地域開発計画も活用し、より貧しい国々がこの機会を利用するのを助けるべく、多国間組織
- 地域間組織と協働し続ける。市場参入に加えて、貿易が貧困と交わる最も重要な分野は公衆衛生である。我々は、発展途上国がHIV/AIDSや結核、マラリアなどの非常に危険な病気への治療に欠かせない薬を入手できるよう、世界貿易機関の知的財産に関する規定が十分な柔軟性をもつよう保証する。
- 不公正な取引方法に対しては貿易協定を施行し法律で取り締まる。商取引は法の支配が前提となる。国際貿易は法的強制力のある協定を前提としている。我々の最優先課題は欧州連合(EU)、カナダ、メキシコとの間で継続中の議論を解決し、そして不必要に農産物輸出や農業改良を妨げている新技術や科学保健条例に対処するために世界的に尽力することである。不公正な貿易取引を規制する法はしばしば乱用されるが、国際社会は政府補助金とダンピングに関する強い懸念に対応できなければならない。公正な競争を阻害する国際産業スパイも摘発され、阻止されなければならない。
- 市場開放に対して国内産業と労働者が適合するよう助力する。こういった過渡期の保障措置については、しっかりした法制度上の枠組みがある。我が国はそれを農業セクターにおいて使用してきており、また本年度アメリカの鋼鉄産業を支援するために使用する予定である。自由貿易の利益は公平な商取引の遂行にかかっているのである。保障措置は自由貿易の利益がアメリカの労働者の犠牲の上に成り立つものではないことを約束する。貿易調整補助は労働者が開放市場の変化とダイナミズムに適合することを助ける。
- 環境と労働者を保護する。合衆国は繁栄を拡大するとともによりよい生活を提供しうるような方法で経済成長を促進させなければならない。我々は労働や環境に関する懸案事項を合衆国の貿易交渉に盛り込んでいき、WTOとの多国間環境協定の間で健全な「ネットワーク」を創りだす。また、国際労働機関(ILO)や貿易特恵プログラムやより自由な貿易の推進と併せておこなう労働条件の改善のための貿易交渉を利用していく。
- エネルギーの安全性を高める。我々は同盟国や貿易パートナー、エネルギー生産者と協働することで、我々自身のエネルギーの安全性を高め、世界経済の共通の繁栄を促し、とりわけ西欧、アフリカ、中央アジア、カスピ海地域で供給される世界エネルギーの資源と資源の種類を拡大しなければならない。我々はまた、よりクリーンで、よりエネルギー効率のよい技術を開発するためにパートナーと連携し続けていく。
経済成長はその成長に伴う温室ガスの濃度を一定にし、地球の気候への人間の介入が危険なレベルに達するのを抑えるという世界的な取り組みとともに成し遂げられなければならない。我々の包括的な目標はアメリカの温室ガスの排出量を我々の経済の大きさに応じて削減し、来る10年、2012年までにそういった経済活動ごとの排出量を18%削減することである。この目標を達成するための我が国の戦略は以下のようなものである。
- 国際協力のための基本的な国連枠組条約をこれまで通り遵守する。
- 温室効果が大きいと予測されるガスの排出を削減するために、主要産業との協定を締結し、実際に排出量の削減をおこなった企業に対しては譲渡可能信用状を与える。
- 排出削減の測定
- 記録のためのよりよい基準を開発する。
- 温室ガスを排出しないエネルギーとして、原子力発電だけでなく、再生利用可能なエネルギーの生産と環境に悪影響を及ぼさない石炭利用技術を推進する。また、それと併行して国産車とトラックの燃費を改善していく。
- 研究および新しい環境保全技術への支出をどの国の気候変動への予算をも上回る最高額である、計450億ドル(昨年予算比70億ドル増)に増額する。
- 発展途上国、とりわけ、中国やインドのような温室ガスの主要な排出国がこの取り組みに参加できる手段と資源をもち、クリーンなよりよい方向に成長していくことができるよう支援する。
目次||
前文|
1章|
2章|
3章|
4章|
5章|
6章|
7章|
8章|
9章