「自由に対するもっとも重大な危険は過激主義と科学技術の交わる所にある。 生物化学兵器や核兵器が弾道ミサイルとともに拡散したとしたら、 もしもそんなことが起これば、 弱い国や小さな集団であっても大国を打ち砕くような破壊的な力を持つことができるようになる。 我々の敵はまさにこのような意図を宣言しており、 こうしたおぞましい武器を求め続けている。 彼らは、我々を脅したり、我々や我々の友好国を傷つけることができるような能力を持とうとしている ― そして、我々は全力をあげてこれに対抗する。」
冷戦の脅威の性質ゆえに、合衆国およびその同盟国と友好国は、敵による戦力行使を制止するという ことを強調しなくてはならなかった。そのため、相互に破壊を保証し合うという冷酷な戦略が生み出された。 ソビエト連邦の崩壊と冷戦の終結とともに、我々の安全保障環境は根本的な変革を遂げた。
我々とロシアとの関係の基本は対立から協力へと変化した。その利益は明白だ。それは、我々を分断していた恐 怖の均衡の終結、両陣営における核兵器の歴史的な削減、そして、つい最近までは想像するのもむずかしかった ことだが、反テロリズムやミサイル防衛といった分野における協力などだ。
しかし、ならずもの国家とテロリスト達が、新たな深刻な課題を引き起こしている。こうした現在の脅威のどれ も、ソヴィエト連邦が我々に対して配備した破壊的な力とは比べものにならない。しかし、こうした新たな敵の 性質と動機、今までは世界の最強国にのみ許されていた破壊力を持とうという彼らの決断、そし て、我々に対して大量破壊兵器を使う可能性が増していることが、今日の安全保障環境をさらに複雑に危険なも のとしている。
1990年代に、いくつかのならずもの国家が出現した。ならず者国家には、重要な点で差違があるものの、多 くの共通点がある。 こうした国家の共通点は以下のようなものである。
湾岸戦争の時に、我々は、イラクの目的が自国民やイランに対して用いられた化学兵器だけに限定されるのでは なく、核兵器や生物兵器を手に入れることにまで広がっているという反駁の余地のない証拠を入手した。過去1 0年の間に、北朝鮮は世界の主要な弾道ミサイルの供給元となり、さらに性能の高いミサイルの実験を繰り返して いる。また、国産の大量破壊兵器を開発してきている。 他のならずもの国家も、核兵器や生物化学兵器を得ようとしている。こうした武器をこのような国家が得ようと し、国際的に取引することは、すべての国家にたちはだかる脅威となった。
我々は、ならずもの国家と彼らが支援するテロリストが我々を脅したり、合衆国やその同盟国と友好国に対して 大量破壊兵器を使用できるようになる前に阻止しなくてはならない。我々は、強化された同盟、以前の 敵との新しい協力関係の確立、軍隊利用の革新、効果的なミサイル防衛システムの開発を含む先端技術、情報収 集と分析のさらなる重視といった好条件をじゅうぶんに活用して対応を図らねばならない。
大量破壊兵器と戦う我々の包括的戦略には、以下のものが含まれる。
この新しい脅威の真の性質を我々が理解するまでに、ほぼ10年かかってしまった。 ならずもの国家とテロリストたちの目的を知った以上、合衆国はもはや今までのようにたんに素早く反応する受 身の態勢にのみ頼っているわけにはいかない。将来我々を攻撃するかもしれない者を防ぐことができないこと、そして、 今日のさしせまった脅威、我々の敵が選ぶ兵器によって引き起こされるかもしれない被害の規模を考えれば、そ のような選択は許されない。我々は、敵に最初に攻撃させるわけにはいかないのだ。
何世紀にもわたって、国際法は、国家に対して差し迫った攻撃の危険がある場合には、その危険を引き起こす武力 から自衛するための合法的な行動を取るために、みすみす攻撃を受けるのを待つ必要はないと認識してきた。 法学者や国際的法律家は、先制攻撃の合法性の条件を差し迫った脅威の存在に置いてきた。それは、多くの場合 、攻撃準備の ために陸海空軍を目に見えるかたちで動員、配備することである。
我々は、差し迫った脅威という概念を、現在の敵の能力と目的に適合させなくてはならない。ならずもの国家とテ ロリストたちは、通常の方法によって我々を攻撃しようとはしていない。彼らは、そのような攻撃は失敗するこ とを知っている。その代わりに、彼らはテロ行為に頼る。また、彼らが大量破壊兵器の使用に頼る可能性もあ る。こうした兵器は、たやすく隠し、ひそかに運び、警告なしに使うことができる。
このような攻撃の標的は我々の軍隊と我々の市民たちだ。民間人を標的にすることは、国際戦争法規の主要な規 範の1つに直接違反する。2001年9月11日の犠牲者の方々によって示されるように、多くの市民を犠牲に することがテロリストの明確な目標なのだ。そして、もしテロリストたちが大量破壊兵器を手に入れ、使用した ならば、こうした犠牲者は飛躍的に増えることだろう。
合衆国は、我々の国家安全保障に対する強力な脅威に対抗するために、先制行動の選択肢を長らく保持してき た。脅威が大きければ大きいほど、行動しないことの危険性が高まる。そして、たとえ敵の攻撃の時間や場所に 関して不確かな要素が残っているとしても、我々を守るために、先を見越した行動を取らざるを得なくなる。 我々の敵による敵対行動を出しぬいたり防いだりするために、合衆国は、もし必要ならば、先制的に行動する。
合衆国は出現する脅威に対して先制行動をする際に、つねに軍事力を用いるわけではない。 また、国々は侵略の口実として先制攻撃を用いるべきではない。 しかし、文明の敵が、公然と、活発に、世界でもっとも破壊的な技術を手に入れようとしている時代において は、合衆国は危機が迫っているのに手をこまねいているわけにはいかない。 我々は、常に我々の行動の結果を考慮しながら、慎重にことを進めていく。 先制行動の選択肢を支持するために、我々は以下のことを行う。