今年4月27日から5月7日深夜まで、デンマークではゼネストがあった。 公務員を除く労働者約50万人がストライキに参加した。 総人口は約520万人だから、50万人といえば、その1割に及ぶ。
飛行場は閉鎖、各種工事もストップ。店頭からパンが消えた。 新聞も週刊誌も出ない。 ガソリンがないのでバスは間引き。 郵便も遅れる。 掃除が行き届かず、閉鎖する学校や保育園も。 病院では緊急の手術以外は延期…この間まともに動いていたのは、電車とインターネットぐらいだったとか。
こうした大規模なストライキは、ほぼ12年ごとに起こっているそうだ。 今回の組合の要求は、「今までの5週間の有給休暇に加えて、あと1週間の有給休暇を」というもので、会社側の回答が1日のみだったため、ストに突入したという。
7日深夜に政府が介入し、すべての労働者に有給休暇をもう1日(計2日)、14歳未満の子供を持つ親にはさらに3日間の「子供の世話をする日」を上積みする、ただし年金保険料の会社負担分を給与の0.4%分減額、ということで決着がついた。
それにしても、「もっと休みを!」の一言で、職種を超えた50万人がストライキに突入する、というのは、日本にいると、信じられないような気がする。 「仕事は大切だが、家族はもっと大切」という組合側の言葉を読みながら、デンマークで見聞きした光景をあれこれ思い浮かべた。
昨年4月、エリツィン大統領とヘルシンキで会談した後デンマークに立ち寄る予定だったクリントン大統領が膝のけがのために帰国し、デンマークには7月に来ることになった。 この発表を聞いた警視総監の第一声は「クリスマスについで最悪の日程だ。警察官の夏休みはどうなるのか」だった。 日本の警察がこんなことを言ったら、どんなにたたかれることだろう。
また、ある時、特別養護老人ホームで研修していた若い友人が、驚きをこめて言った。 「休憩時間にお年寄りの方がブザーを押しても、命に関わるようなことじゃないと、平気で待たせているんですよ。 コーヒーを飲んでおしゃべりしてるだけなんだから、行ってあげればいいのに、と思ってはらはらする」
学校の先生も、休憩時間はコーヒーを飲んでくつろいでいるし、自分の授業が終わるとさっさと帰ってしまう。 生徒が帰ってからも遅くまで仕事をしている日本の先生と大違いだ。
デンマーク人は自己中心的なのだろうか。
ところが、半年ぶりに再会した友人はこう言った。 「日本の福祉施設では、どうしても無理をするので、体を壊してしまって長続きしない人が多いんですよ。 でも、デンマークの人は長く働き続けているし、『楽しいから働いている』って言う。 自分の休憩時間を守るのは、けっこう大事なことかもしれない」
確かに、休む事は、人にとってとても大切なことだと思う。 企業に勤める人も、警官も、福祉施設の職員も、学校の先生も、だれにでも休む権利、人間らしい生活を楽しむ権利があるはずだ。 そして、自分が余裕のある毎日を送っていると自然に他の人の権利をも大切にしようという気持ちが生まれるのではないだろうか。
日本には、毎日ぎっしり詰まったスケジュールをこなしている子供が多いそうだ。 ここ数年、子供たちに「今いちばんしたいこと」を問うと、「ゆっくり休みたい」「眠りたい」という答えが上位に来る、という。 のんびりする時間の大切さを大人たちが日々感じていれば、子供が一見役に立たないようなことに熱中したり、ぼーっとしていても、追い立てようとはしないだろうに、と思う。
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