パンケーキの国で 〜子供たちと見たデンマーク〜 ◆ 7

SFO

遊ぶ、遊ぶ。ここは自由に遊ぶところ

東京新聞:1998年3月10日掲載

SFOの庭の池で遊ぶ子供たち

学校の授業は、幼稚園クラスや1年生では、午前11時半に終わる。 2、3年生になると、午後零時半までの日が週に1、2回ある。

大多数が両親とも働いているので、学童保育に入る子が多い。 うちも、下の2人が入った。 学童保育は3年生まで。 学校自由時間保育(skolefritidsordning)の頭文字をとってSFOと呼んでいた。 専門の指導員がいる。 朝6時半から始業までと、授業が終わってから5時まで、みてくれる。 有料だ。 値段は、だいたい1ヶ月1万2千円くらい。 2人目からは半額になる。

◎ ◎ ◎

アスコウのSFOの建物は学校の敷地内に2つあったが、それでは足りず、空き教室も使っていた。 SFOで子供たちは何をするか。 遊ぶ。 ただ、ひたすら遊ぶ。 「ここは、自分がやりたいことをみつけてやるところよ」と指導員も言う。

遊び道具は揃っている。 室内には本やまんが、ゲーム、レゴブロックやバービー人形のコーナー、おままごとの部屋、変装部屋、楽器で騒ぐ部屋などがある。 料理もできる。 大きい子の部屋にはテントが張ってある。 学校のコンピューター室で遊ぶこともできる。 ミシンの使い方、編み物や手芸も教えてくれる。 木工をやれる日もある。体育館でも遊ぶ。 上の娘は、ここで友達にバドミントンを教わったという。

芝生の庭には、池があり、小さな丘があり、砂場があり、廃材で小屋などを作る場所があり、ティピ(小さいテント)があり、りんごの木がある。 りんごが赤く色づく頃になると、いつもだれかが木に登ってりんごをかじっている。 こちらにも投げてくれる。 周りに木の茂みがあって、基地が作ってあったりする。 指導員がたき火をして、木の枝に巻き付けたパン生地や、枝に刺したりんごを焼いて食べたこともある。

コンクリート舗装の校庭にもつながっている。 ローラースケートは、ここがいい。 奥のほうには、サッカーコートが4面とれる芝生広場が広がっていて、そこでも遊べる。

2、3年生になると、ひとりで帰る子が多くなるが、小さい子の場合は、親が迎えに来る。私も迎えに行った。 5時に行けば、だいたい部屋の中にいるのだが、こちらの都合で早めに行ったりすると、見つけるのがたいへんだ。 子供はひとところにとどまっていない。 「体育館で見たよ」「砂場にいるんじゃない」みんなに聞いて、学校中駆け巡るこになる。

◎ ◎ ◎

ある日、アメリカ滞在経験のある母親が怒った。 「ここの指導員は部屋の中でお茶ばかり飲んでいて、子供がどこで何をしているのか、まったく把握していない。 けんかしたり、けがをしたって見ていない。これでは安心して預けられない。 こんなこと、アメリカでは考えられない。 庭の角ごとに指導員が立って、子供たちがどこで何をしているか、いつも目を配っているべきだ」

「そんなことしたら、子供は好きなように遊べなくなる。 私たちがいつもここにいることを子供が知っていれば、それで十分でしょう。 自分たちで解決できない問題があったときは、ここへ呼びに来ればいいんだから」 自分たちの怠慢を覆い隠す言葉というよりも、子供を基本的に信頼しているところから出た言葉のように、私には聞こえた。

少なくとも、子供たちにはデンマーク式の方が楽しいのは間違いない。 上の娘は、朝、学校へ向けて自転車をこぎ始めながら、よく叫んでいた。 「よおし、今日もSFOであそぶぞー」

伊藤美好(いとう みよし)

※ 東京新聞の了解を得て、インターネットに公開しています。

ご意見、ご感想は、io@itoh.orgまでお願いします。

[Io - Index] [パンケーキの国でToppage] [第6回] [第8回]