神楽坂会議 今までの勉強会から

有事法案を読み解くために
松尾高志さんのお話から

松尾高志さん
ジャーナリスト
大阪経済法科大アジア研究室客員研究員

はじめに

有事法案は、9.11や不審船事件があったから出てきたのではない。
昨年一月に森首相は「有事法制の検討」を戦後の首相で初めて言った。でも、森内閣はすでに死に体となっていたので、事務方が手をつけなかった。
昨年5月、小泉首相が首相に就任し、森首相とまったく同じように「有事法制の検討」を、政治課題としてあげた。昨年夏には、今年の通常国会へ出す予定になっていた。
だから、今回出てきたのはまったく予定通り。9.11や不審船は追い風となっただけ。

現在出ている3法案の性質

  • 基本法
  • プログラム法 (これからなにの法律を作るかという目録)
  • 個別法
  • をミックスしたもの。
    内訳は、
  • 武力事態攻撃法案 第1章、第2章と、安全保障会議設置法一部改正案・・基本法
  • 武力事態攻撃法案 第3章、第4章・・・プログラム法
  • 自衛隊法及び防衛庁職員給与等法の一部改正案・・・個別法

  • となっている。

    基本法部分の内容は、これから作られる個別法すべてにかかってくるので重要。

    武力事態攻撃法案の構造


    第1章 第2章・・基本法
    第3章 第4章・・プログラム法

    第3章22条をもとに、これから2年以内に次々と法律が作られる。

    22条は、大きく分けると
    1.国民保護のための法制
    2.自衛隊の行動を円滑かつ効果的にするための法制
    3.米軍の行動を円滑かつ効果的にするための法制
    4.国際人道法に関する法制
    *注(これは1〜3のすべてにかかる)
    にわけられる。

    第4章は、「小泉条項」と言われるもの。テロや不審船や大災害にも対処しろという、首相の強い意見で作られた。
    「武力攻撃事態以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態」に対処するための施策を講ずるとあるが、これにはいつまでに制定するという期限が定められていない。

    法案を読む時、気をつけるポイント(基本法の部分に関して)

    第1章 第二条
    1項
    「武力攻撃」の定義 ・・我が国に対する外部からの武力攻撃
    内部でなにかが起こってもダメ。

    2項 「武力攻撃事態」・・二段階に分けられる
    第一段階 武力攻撃が予測されるに至った場合
    第二段階 武力攻撃(おそれを含む)が発生した事態
    *「発生した事態」とは、相手方が攻撃に着手した場合のこと
    第一段階では、自衛隊に防衛出動待機命令が出る。(国会事後承認)
    第二段階で 自衛隊に防衛出動命令が出る。(原則として事前承認・緊急時事後承認)

    3項 指定行政機関 「政令で定める」
    4項 指定地方行政機関 「政令で定める」
    5項 指定公共機関(日本銀行、日本赤十字社、NHK、その他の公共的機関および電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人のうちから)「政令で定める」

    ・・・と、すべて「政令で定める」(政令は内閣が定めるもので、国会の承認がいらない)ことになっている。

    6項
    イ 武力攻撃事態を終結させるために実施する措置
    (1)自衛隊が戦争行動をする、という意味
    ロ 国民生活に関するもの
    (1)民間防衛
    (2)経済統制 → 3章22条(ホ)


    第2章 *この章は、安全保障会議設置法(と設置法改正案)と合わせて読むこと
    9条 対処基本方針 ←これがこの法案の中核となる条項
    どういうシステムで戦争を開始し、遂行するかということを規定した部分。
    「9条が9条を破壊する」←松尾語録
    (武力攻撃事態法案の9条が憲法9条を破壊するという意味)

    ・そのなかでも4項が重要

    その内容を一言でいうと

    防衛出動命令について、原則としては国会の事前承認を得ないといけないが、緊急差し迫ったときには、事後承認でいい *注

    つまり、「戦争だ」というのも、やめるのも、「政府」が決める。

    最終的な権限は首相にあるが、首相は安全保障会議に諮る。

    安全保障会議は議長が首相、議員は(安全保障会議設置法によれば)外務大臣、財務大臣、内閣官房長官、国家公安委員会委員長、防衛庁長官、経済・財政担当大臣。
    改正案では、これに総務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣も加わって9人になる。

    改正案では事態の認定など重要事項については首相、内閣官房長官、外務大臣、防衛庁長官、国家公安委員長、国土交通大臣の6人で決めることができるようになる。
    これが戦時体制のキャビネット(内閣)

    でも、この人たちだけで武力攻撃事態発生と終結の認定をするのは無理なので(専門的知識も現場の知識もない)、事態対処専門委員会という、専門スタッフによる組織が補佐をする(安全保障会議設置法改正案第8条)。
    実質的には、この事態対処専門委員会ですべて決まる。委員長は内閣官房長官。

    ところが、どういう人たちがメンバーになるかは、「専門的知見を有する人」と説明されるだけで、公表されていない。

    事態対処専門委員会のメンバーにどういう人が入ることが予想されるか


    ○この法案では、武力攻撃事態に対して、日米が共同して軍事行動を起こすことが前提。
    ↑ 武力攻撃事態法案第3条(基本理念)

    5項 武力攻撃事態への対処においては、日米安保条約に基づいてアメリカ合衆国と緊密に協力しつつ、国際連合を始めとする国際社会の理解及び協調的行動が得られるようにしなければならない。

    ○アメリカと共同して軍事作戦を練っている人たちといえば・・・
    日米新ガイドラインに基づいて、昨年9月から日米共同作戦計画および相互協力計画(軍事共同作戦計画)を立てているのが、共同計画検討委員会(BPC)。
    このメンバーは、米側からは在日米軍副司令官と、在日米軍および米太平洋軍関係者、日本側からは統合幕僚会議事務局長、自衛隊の関係者。
    ここで日米共同のオペレーションプラン(軍事作戦計画)を作っているので、この関係者が事態対処専門委員会に重なると考えられる。(中谷防衛庁長官は、共同計画検討委員会がたてた日米共同作戦計画・相互協力計画と有事法案とが「関係ある」と参院外交防衛委員会で答弁しています by いとうみよし) 公式見解では指揮系統が二元式になっている(総指揮官が米大統領と日本の内閣総理大臣の二人)が、統幕議長は「一元式が望ましい」と発言している。
    NATO、米韓でも総指揮官は一人。

    *日本でも、警察予備隊→保安隊→自衛隊に変わるたびに「指揮権は米軍に委ねる」という密約があったらしい。とすると・・・?


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