パンケーキの国で 〜子供たちと見たデンマーク〜 ◆ 4

耳を澄ます

経験で身につける話し合いのルール

東京新聞:1998年1月20日掲載

公園で遊ぶ幼稚園クラスの子供たち

8月。 一面の麦畑が黄金色に波打つ。夏至の日から1ヶ月半続いた夏休みも終わり、新しい学年が始まった。

6歳の末娘も、兄姉と同じ学校の幼稚園クラスに通うことになった。 ちょうどフォルケホイスコーレ(民衆大学)の夏期コースが終わり、10月末からの冬期コースまで暇だったので、娘のクラスを見学することにした。

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8月は、収穫の季節。 学校の農園の麦を刈り、麦の粒をひいて粉にしたり、色々な種類の麦を使って工作したり、同級生の農場に行って刈り入れ作業を見たり、農場の動物と遊んだりした。 最後にみんなでパンをこね、焼いて食べた。

9月。 最初の時間、先生が子供たちに「これからゲームをするよ。 1分間目を閉じて、どんな音が聞こえるか、耳を澄ましてごらん」と言った。 みんな目を閉じて息を潜め…「時計の音」「車!」「鳥の声」「足をばたばたする音」「息の音」等、手を挙げて次々に言う。 次は、目を閉じている間、先生がたてる3種類の音を聞いて、何の音か当てるクイズ。 「ボールがはずむ音」「足踏み」「はさみ」。

その後は、子供たちが次々に出題者になってゲームを続けた。 他の子が発言しているときにしゃべる子がいると、先生は静かに「シイーッ」と言う。大きい声は決して出さない。 こうして休み時間のチャイムが鳴って外に飛び出していくまでの45分間、子供たちは楽しく静かな時を過ごした。

この月は、部屋の中に隠した時計を音を頼りに捜したり、友達が持ってきたおもちゃを音を聞いて当てたり、同じ音を持つ言葉を探したり、「聞く」ことを中心にした遊びの授業が毎日あった。

お行儀として「静かにしなさい」と言われたからでなく、好奇心から自然に子供たちが静かになっていく様子に舌を巻いた。 クラスの17人全員に発言するチャンスがあり、「みんなが聞いてくれる」うれしさも、「友達の前に立って、答えるべき人を指名する」という、先生になったような誇らしい気持ちも味わい、それぞれが満足しているので、他の子がしゃべっている時にも静かに聞けるのだろう。

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デンマーク滞在を通じて最も強い印象を受けたのは、話し合いの時の静けさと、意見の活発なことだった。ミーティングでも、お茶を飲んで話しているときでも、何か意見を言い始める人がいると、みんなさっと静かになって、耳を傾ける。

気付かずにしゃべっている人には、近くにいる人が「シィーッ」と言う。相手が年上だろうと、関係ない。言われた人はすっと口をつぐむ。反論したい人は、手を挙げて待つ。誰か一人が指名する役にまわる。とことん意見を出し合って、みんなの納得する地点を探そうとする。

長男に聞くと、6年生のクラスでも、授業中や話し合いでだれかが発言している時は、みんなよく聞いていると言う。

どうしたらこういう態度が育つのだろうと思っていたので、幼稚園クラスの「耳を澄ます」授業はとてもおもしろかった。

その後、気をつけて見てみると、先生も親も子供の話をさえぎらない。最後まで聞いてから、大人に対するのと変わらない調子でまともに答えている。

また、子供たちは、地域の集まりや、保育園や学校の親の会で話し合う親たちの姿をずっと見てきている。こうした経験の積み重ねで、話し合いのルールが身に付いていくのだろう。

伊藤美好(いとう みよし)

※ 東京新聞の了解を得て、インターネットに公開しています。

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