神楽坂会議 今までの勉強会から

もの言えぬ職場から「戦地」へ ・ その後


 2004年3月22日、東京地裁(多見谷寿郎裁判長)において、石川島播磨重工業従業員・元従業員の8名の方々が会社を相手に行っていた訴訟の和解が成立しました。

 ほぼ全面的な勝利和解でした。

 提訴した8人の方々の待遇改善だけでなくて、他の差別されている方々も協議できる道を開いたこと、今後差別是正することを会社に約束させたことには、大きな意味があると思います。

 和解後の説明会では、原告の8人の方たちが、それぞれ喜びと感謝を述べられました。

 渡辺さんは、
「みなさん、ありがとうございました。裁判に立ちあがるまでが一番苦しくてつらい闘いでした。
でも、立ちあがってみたら、貴重な情報や、支援をよせてくださる方たちがたくさんいらっしゃいました。
管理職も含めて、このままじゃいけない、これでは会社がたちいかなくなる、という思いがあるんだなあと思いました」といい、続けて、支援された方々への感謝を述べておられました。

 今後の交渉で、「もの言える職場」が実現することを願っています。 

(いとうみよし)

以下は、当日出された声明文です。




【声明】画期的な勝利和解の成立にあたって

 2004年3月22日
石川島播磨人権闘争支援共闘会議
石川島播磨人権闘争弁護団
人権回復を求める石川島播磨原告団

 石川島播磨重工業株式会社(以下「石播」)における昇格・昇給、仕事、行事参加などについての長期間にわたる差別・人権侵害の是正と賠償および再発防止を求めてきた私たちのたたかいは、本日、東京地方裁判所において、石播との間で和解を成立させ、和解調書およびこれに基づく覚書を勝ち取ることができました。画期的な勝利和解の成立にあたり、これまで熱いご支援をいただいた職場のみなさま、全国のみなさまに心からお礼を申しあげます。

 この和解で、石播は、これら差別に関し、差別的な人事管理が行なわれたと疑われてもやむをえない状況であることを認め、差別による原告らの苦痛に配慮して、遺憾の意を表明するとともに、過去にさかのぼって資格と賃金を是正し、女性の原告については男女差別の是正を含めて原告らに対し賠償金を支払い、さらに解決金を支払うことに同意しました。

 石播は、今後、思想差別、女性差別、不当労働行為などの差別的人事管理を行なわないこと、管理職、人事関係者、職班長に対し、本和解の趣旨を踏まえた教育を行ない、再発防止につとめることを確約しました。また、石播は、この教育のために作成し配布するパンフレットに、原告ら作成の「やってはならない差別の事例」と「差別に対して取るべき態度」(別紙添付)を記載することを検討することに同意しました。

 石播の差別の異常さを際立たせているインフォーマル組織(秘密労務組織)などによる会社行事・職場行事からの排除を根絶するため、石播は、これら行事の参加について全員に声かけをさせること、これを行なわない団体・個人に対しては会社施設使用などの便宜供与を行なわないことを約束しました。

 今後、本和解の履行状況について、石播は、原告らからの申し入れに応じ、誠実に協議すること、および原告ら以外の者から差別の訴えがあった場合においても、本和解の精神を踏まえて協議をすることに同意しました。このように、今後の運動によって差別の根絶へ向け、いっそう前進する道を開くことができました。

 私たちは、石播の差別が、明白な憲法違反であるだけでなく、差別によって、石播のものづくりの職場風土が破壊され、さらには従業員の戦地派遣すら問題にできない状態に陥っていることを明らかにして、広く世論に訴えて闘いました。丸4年の闘いで以上のような画期的な内容の和解を勝ち取ることができたのは、2度の「闘争勝利をめざす全国行動」をはじめとして、石播の重要取引先、関係省庁、関係自治体への要請など、諸行動を支えてくださった全労連をはじめとする諸団体・個人のみなさまのおかげです。

 石播が激しい思想差別と不当労働行為を開始したのは、1960年代後半のことでした。インフォーマル組織をつかって1970年に労働組合を支配し、これに反対する者を撲滅するために、このころからZC計画管理名簿を作成し、公安警察とも連絡をとって、全従業員を監視してきたのであり、この名簿は毎年更新されてきました。「ZC」とはゼロ・コミュニスト(共産党員撲滅)の頭文字であり、そのねらいは明白です。

 石播は、こうした「もの言えぬ」職場づくりを行ないつつ、1979年と1986年に大規模な人員削減を強行しました。人件費削減効果で一時的には業績を改善させましたが、他方では、熟練労働や技術が失なわれ、職場の士気やモラルが低下しました。そのことによる弊害は明瞭でした。石播は、もんじゅのナトリウム漏れ事故(1995年)、H2ロケット打ち上げ失敗(1999年)に続き、昨年11月のH2Aロケット打ち上げ失敗でも、これらの原因となる重大なミスを重ねました。このように、技術・品質の低下が、今日の業績不振を招いています。

 現在、石播が業績不振を理由に強行しようとしている3度目の大規模人員削減と10パーセントの賃金カットは、技術・品質のいっそうの低下を招き、経営危機をさらに深刻にするだけです。

 石播経営者は、この和解を契機に、40年に及んでいる思想差別と不当労働行為にきっぱりと終止符を打ち、労働者と技術を大切にする経営に転換し、真摯に会社の発展をはかるべきです。

 私たちは、この和解を新たな出発点として、石播の職場において差別根絶、労使関係の正常化のために全力を尽くす決意を新たにしています。

                                   (以上)





(覚書別紙)


【会社および従業員がやってはならない差別の事例】

 会社と従業員は、憲法に定める基本的な人権を尊重し、いかなる差別や嫌がらせも行わないことはもとより、労働関連法令ならびにその精神を尊重しなければなりません。そのため、やってはならない行為を以下に例示しますが、これにとどまるものではないことは言うまでもありません。

一、女性であることを理由に、補助的な業務を続けさせ、資格や賃金を低く抑える。

二、思想、支持政党、労働組合活動、およびインフォーマル組織の活動への協力度を理由に、仕事(業務従事資格の付与を含む)、資格、賃金などで格差をつける。

三、合理的な理由がなく、本人の意思に反して、仕事を取り上げる、極端に少なくする、席や執務場所を隔離する。

四、仕事上のミスや行き違いを口実に、みなの前で大声で非難・罵倒する、始末書や反省文を要求する、つるしあげる、社内規定にない私的制裁を加えるなどで、精神的または肉体的に苦痛を与える。

五、合理的な理由がなく、仕事や安全衛生などの教育・研修、または社内公開講座などを受けさせない、またこれらの開催や募集を知らせない。

六、合理的な理由がなく、会社の福利厚生制度の利用を制限または拒否する。

七、会社行事、職場行事および日常の職場の交友において、特定の従業員を無視、嫌がらせ、排除を行う。またはこれを働きかける。

八、合理的な理由がなく、会社体育文化会サークルへの入会を拒否する、退会を求める。

九、「話をすると同じに見られるから損だよ」などの忠告・助言という形であっても、結果的に特定の従業員とのあいさつ・対話・交友を、監視・制限・妨害する。

十、香典、祝い金、餞別などを集めない、知らせないなどで、特定の従業員を職場内の冠婚葬祭から排除する。

十一、就業時間内にインフォーマル組織の活動や会議を行う、またはこのために施設使用や外出などの便宜を図る。

十二、特定の従業員が配布するビラなどを受け取らないように働きかける。

十三、新入社員教育などで、労働組合活動に関し特定の従業員や団体を非難し、またはビラの受け取り拒否などの非協力を教唆する。

十四、思想、支持政党、労働組合活動の傾向、インフォーマル組織の活動への協力度、居住地での活動、家族の活動、および私病歴などを調査する。またこれらをリスク・マネジメントの対象にする。またこれらを目的にした教育を行う。



【差別に対してとるべき会社および従業員の態度】

 差別に対する会社および従業員の態度は、以下の7つに分けられます。

(1) 差別をする人(言葉や行動で差別をする人)

(2) 差別を煽る人(差別をする人を指示し、差別を助長する人)

(3) 差別に同調する人(差別をする人と同じ考え方に立つが、行動に は出ない人)

(4) 差別に無関心な人(差別があっても気づかず、自分とは関係ない と思っている人)

(5) 差別に傍観者の立場で接する人(差別があることは知っているが、 ただ眺めている人)

(6) 差別される人(本人に責任や原因がないのに、他の人から差別を 受ける人)

(7) 差別をなくすために努力する人(差別をなくすことに努力し、上 記の人たちの啓発等をしていく人)

 上記(1)〜(3)の人たちが、人間として許されない立場に立っていることは言うまでもありませんが、(4)無関心な人、(5)傍観者が、差別の事実を容認し、結果として差別を支え、そのために苦しんでいる人がいることを真摯に考える必要があります。

 会社と全従業員は「そんなつもりはなかった」「知らなかった」などと自分に直接かかわりのない問題として、無関心な態度を取るのではなく、差別問題を正しく理解し、(7)差別をなくすために努力をする人をめざしてください。

(以上)