松尾高志さん |
ジャーナリスト |
大阪経済法科大アジア研究室客員研究員 |
もくじ
part1変わりゆく自衛隊
「同盟」から「有志連合」(Coalition of the Willing) へ
対北朝鮮戦略と韓国・日本・アメリカ
日米同盟の再々定義:(松尾高志さんの仮説)
自衛隊海外派遣の恒久法化
危険業務従事者叙勲制度に関して―スタッフ準備の資料より
part2
「自衛隊法施行令等の一部を改正する政令」を読む
はじめに
「地域」の周知
任務の格付け
要請するのは誰か
要請の手続き
公用令書の交付
管理命令の対象となる施設
従事命令対象者
従事命令以外の公用令対象者
損失補償は
従事命令による業務従事者には賃金が支払われる
申請しなくてはお金は戻らない
従事命令による業務で怪我をしたり死亡したら
その他必要な事項は内閣府令で定める
「展開予定地域」で準用
適用除外・特例についての追加部分は地面の話ばかり
さいごに
part1変わりゆく自衛隊
「同盟」から「有志連合」(Coalition of the Willing)へ
イラク戦争では、アメリカ軍の負傷兵の数は、これまでで1000人近くに上っている。 イラクの民間人被害の実態は、アメリカから圧力が掛かっており、その調査は進行していないが、記事になったものを集計した「イラク ボディカウント」というホームページがあって、それによると、死者だけで7000人に上っている。
アメリカの中央軍(central command)のホームページによれば、現在、アメリカ主動で三つのオペレーションが進行中とのこと。
@イラクでの戦争 「イラクの自由作戦(Operation Iraqi Freedom : OIF)」
Aアフガニスタンでの対テロ戦争 「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom :OEF)」
Bアフガニスタンに対する海上阻止行動
アフガニスタンへの作戦以降、米中央軍の司令部のあるフロリダ州のタンパに、作戦に参加している各国の軍人が連絡将校として派遣されてきている。それは、「同盟」という枠組ではなく、アフガニスタンに対するOEFという作戦行動へ自主参加しているということでの派遣。日本からは4人派遣されている。
(資料:外務省の広報誌「外交フォーラム」 2003年8月号の記事によれば、派遣された自衛官の肩書きは駐米大使官勤務の外交官、とありました。)
何十台ものトレーラーハウスが居並ぶ光景の写真(資料:中央軍ホームページ:coalition bulletin 1号)。各国から派遣された軍人がそこに駐留しているという。これを称して、「コアリション・ビレッジ (coalition village)」と呼んでいる。
同じように、イラクへの作戦が開始されてからは、この作戦のためのコアリション・ビレッジがもう一つ別個に作られた。日本の連絡官はまだそちらのビレッジには駐留していないが、日本政府がイラクへの自衛隊派遣を決めてからは、顔パスで自由に出入りをしている。
アメリカが推し進めている「有志連合」(Coalition of the Willing)とは、これまでのように「同盟国」だから一緒に行動する、ということではなくて、ある作戦に対して何ができるか自主的に考えて、自国としてはこれをやる、という自由意思の下で参加をしていくということ(OEFのシンボル画像を見ると、Coalition of the Willingがどういうものか実感できるように思います)。
日本がテロ特措法により、インド洋・アラビア海に出ている多国籍軍の艦船に給油活動をしているのも、対アフガニスタン作戦へのコアリション。対北朝鮮戦略と韓国・日本・アメリカ
アメリカの対北朝鮮戦略として、新しいオペレーションプランが今年5月から作られ始めている。前に「作戦計画5027(※注1)」というのがあったが、それとは別の、まったく新しいコンセプトによる「作戦計画5030」というもの。現在38度線付近に貼りついているアメリカの第二師団(※注2)を北の射程外である南に下げる計画があるが、おそらく、これと関係があるのではないか。
※注1:「作戦計画5027」 93〜94年の朝鮮半島核危機の時に、韓国の国会で韓国国防部長官が存在を明らかにしたもの。40万人〜50万人の米軍が米本土・ハワイから韓国・日本に投入されることとなっている。朝鮮半島で戦争が起これば、在日米軍基地はその戦争のために使用されることとなろう。
※注2:在韓米軍は国連軍でもある。
10月下旬には「韓米同盟の再定義」が行われる予定だったが、突然アメリカ側からキャンセルした。しかし、11月にはラムズフェルド米国防長官が訪韓、訪日することになるだろう。
韓国側では大統領側近の汚職事件云々があり、まだこれが進んでいないという状況はある。
アメリカは世界的な米軍基地の構造の切り替えを考えている。これは、現在米軍が推進している軍のトランスフォーメーション(変革)にもとづくもの。変革の中身は、「対テロ構想」に依る。テロはいきなり米本土を攻撃するものであるので、従来の仮想敵国〜前進基地〜米本土という基地観(地理観)・考え方では駄目だ、今ある基地をそのまま置いておくのではコストがかかるしそぐわない、ということで、再編成を計画している。
軍はどんどん計画を進めているが、国務省は国外の基地の再構築には外交交渉が必要ということで、双方で調整をしている。空母一隻を太平洋に増やすといった個別の話は出てきているが、まだ全体の青写真は出ていない。
日米同盟の再々定義:(松尾高志さんの仮説)
安保条約というのは要するに、日本が外から攻撃を受けるのをアメリカが守るという約束。 極東でことが起きた場合に、米軍に基地を提供する以外には日本のすることはない。
両国政府間では、新ガイドラインというもので、実質的にはアメリカがする戦争に自衛隊が出て協力をする、という「日米同盟の再定義」の合意をしてしまっている。
周辺事態法ではそれを根拠にして、アメリカがするアジア・太平洋地域での戦争に自衛隊が出て協力をするというものになっている。 この自衛隊の兵站支援行動は安保条約上に根拠がない。政府はこれは集団的自衛権の行使でもなければ、個別的自衛権の行使でもなく、周辺事態法にもとづく行動だとしている。
日米安保体制は新たな「日米同盟」として再定義された。
このことは、本来なら日米安保条約そのものを改定しなければならなかったのに、そのことの政治的リスクを回避して、政府間合意(新ガイドライン)という姑息な手段で処理してしまったということを意味している。
テロ特措法・イラク特措法でもそれが根拠とされた。この協力では、武力行使とは一線を引き、軍事行使と一体化しない範囲で動くとしている。しかしこれは日本国内だけで通用する議論で、国際法上通用するかどうかは別。
イラク特措法では、法的に「戦闘」という言葉は国際紛争の一環としての武力行使のこと、というのが政府の定義。政府解釈では、ここには山賊・匪賊に対しての武力行使は含ませておらず、そうしたものは「戦闘」に当たらない行為としている。
「再々定義」というのは、ここから更に集団的自衛権の行使ができるような法整備をしていくだろうということ。
その方法としては二つ考えられる。@ 「安全保障基本法」構想の成立を進めていく
あるいは、
A 直接「憲法改正」という手段に出る自衛隊海外派遣の恒久法化
政府は、アフガニスタン、イラクと事態ごとに特措法をつくるのではなく、自衛隊の海外派遣を恒久法化することを目指している。来年の通常国会か再来年の通常国会にこれを出すというところまでは、ハッキリしている。
「国際平和協力懇談会」の報告書(2002年12月18日: 通称「明石レポート」)が外務省から出ている。今年の防衛庁の防衛白書にはこの要旨が掲載されており、このレポートがベースとなって恒久法が策定されることとなるのではないか。
最新の防衛白書は、これまでと違った新しい書き方になっている。オペレーションに関して二つの章で書かれ、これまで全部で五章立てだったのが六章立てになった。
「第三章」わが国の防衛というオペレーションと「第四章」海外でのオペレーション(カンボジア派遣から10年間のこれまでの海外行動が実績として挙げられている)とが同じ格付けで「章」立てて白書に載ったのはこれが初めて。
「第六章」にはこれからのことが書いてある。そこに海外派遣実績を踏まえて海外で動くということが書いてある。海外の平和協力活動について、「自衛隊の主要な活動の一つになったといえる」という表現になっているところから、やはり本来任務として表に出ていくことを考えている。
今まで自衛隊員は、外へ行って活動するという風に採用されていない。「死ぬ」ということについて、戦前は「死は鴻毛より軽し」、鳥のフワフワした羽よりも死は軽いものだと言って、死ぬのは当たり前、生きて捕虜になってはいかんと、そういう教育をした。
だが、戦後は隊員となる際の宣誓の中にも「身を挺して」という言葉しかない。「身を挺す」ということは、具体的に「死ぬ」というところまでになっていないということだ。だから、自衛隊は今はまだ「死ね」とは言えない。そこのところは憲法を改正して「軍隊」にすれば「死ね」ということになる。 実情は、イラクに行けば死ぬか殺されるかというところまできている。
自衛隊に入隊してくる時には、「死ぬ覚悟まで必要ない」と言って、そこは牽制している。例えば、間接侵略・直接侵略があった時に防衛するという本来任務(*注3)の時に「嫌です」といえば、懲役7年となっている。けれども海外任務の時に「嫌です」と言っても罰則はない。
軍隊にするということは「軍法会議」が必要だということ。今の自衛隊には軍法会議はない。憲法に、特別裁判所はこれを置くことを禁ずると書いてある。軍隊というものは、軍法会議がなければ成り立たない。懲役7年ですむのだったら、敵前逃亡をした方が死ぬよりましと思うだろう。軍隊の犯罪が民間の裁判所にかけられるということでは規律を徹底できない。改憲する時には、軍法会議ができるように、そういう規定を入れてくるだろう(*注4)。
*注3
<自衛隊法>
第三条
自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。「防衛庁の職員の給与等に関する法」が改正されて、第十五条四項に「戦闘」という言葉が入った(*注5)。『法律時報』2002年12月臨時増刊号で、星野安三郎さんがそこを指摘している。 これまでは「戦」と「兵」という文字は禁句だった。法律に「戦」という字が入ったのは戦後今回が初めて。
*注4
<日本国憲法>
第六章 第七十六条
A特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
(参加者から、「いちばん目立たない所に一語だけ、すべりこませている。これじゃふつうの人は気づかない・・」とのため息。「防衛庁の職員の給与等に関する法」は、有事三法成立翌日の新聞でも省略されていました)。旭川の第2師団がイラクに行く。今回の総選挙では、その選挙区で、もしかしたら自民党でなく、民主党が勝つのではないかといわれている。家族は行かせたくない、そこまで愛国心に燃えたぎっていないし、そこまでやるべし、とは今はなっていない。国内世論の5割から6割が自衛隊のイラク派遣には反対だから。派遣は強力な国内世論のバックアップがなければ難しい。
*注5
<防衛庁の職員の給与等に関する法律>
第十五条 自衛隊法第七十六条第一項 の規定による出動(以下「防衛出動」という。)を命ぜられた職員(政令で定めるものを除く。)には、この条の定めるところにより、防衛出動手当を支給する。
2 防衛出動手当の種類は、防衛出動基本手当及び防衛出動特別勤務手当とする。
3 防衛出動基本手当は、防衛出動時における勤労の強度、勤務時間、勤労環境その他の勤労条件及び勤務の危険性、困難性その他の著しい特殊性に応じて支給するものとする。
4 防衛出動特別勤務手当は、防衛出動時における戦闘又はこれに準ずる勤務の著しい危険性に応じて支給するものとする。
そういう意味では、武力攻撃事態法が国会の9割の賛成で通ってしまったことは大きい。今度の改憲については、「第一党・第二党の合意でやりたい」と小泉首相が言っているのは、圧倒的多数でそこを打破しようということ。そうでなければ軍隊の士気にかかわるからだ。危険業務従事者叙勲制度に関して―スタッフ準備の資料より
「栄典制度の改革について」(平成14年8月7日閣議決定)に基づき、今年から、春秋叙勲とは別に、新たに危険業務従事者に対して勲章が授与されることになり、10月5日付で受賞者が発表されました。
全国での受賞者は3546人。職業別では、警察官1932人(うち女性3人)、自衛官が887人(3人)、消防吏員636人(なし)、海上保安官90人(なし)、入国警備官1人(なし)でした。
朝日新聞全国版では、全国の受賞者数と全体の職種別の受賞者数割合などが、2面下段のごく小さな記事にあっさりと記されていました。
埼玉新聞には、県内の受賞者163名の氏名・年齢・功労(職業)・現住所(市町村名)が載っていました。
四国新聞には、県内受賞者氏名等の紹介の他に階級が掲っていました(松尾さんに伺うと、みな下士官の方々ということです。今までの春秋の叙勲では、将官のみが受賞していたそうです)
「危険業務従事者叙勲受賞者の選考手続きについて」(平成15年5月20日閣議了解)によれば、その概要は 以下のようになっています。春秋叙勲と切り離したのは、受賞人数を大幅に増やし、若い人も受賞できるようにするためだということです(いままでは、受賞年齢は通常70歳以上だった)。これから叙勲予定者数は毎回おおむね3600名。毎年4月29日と11月3日に発令する。
国家又は公共に対する功労のある55歳以上の者が対象。
総務大臣、法務大臣、国土交通大臣、国家公安委員会委員長及び防衛庁長官が、候補者を首相に推薦する。
首相が審査を行ない、閣議決定する。
また、栄典制度の在り方に関する懇談会報告書(平成13年10月29日)には、「栄典の意義」として、次のような記述があります。(松尾さんの指摘による)
自衛官が危険業務従事者として春秋叙勲と切り離して特別に叙勲されることになったのは、「国家・公共の観点から評価されるべきもの」がなにであることを示しているのでしょうか。今は警官や消防官といっしょの叙勲ですが、今後どのようになっていくのでしょう。我が国においては、栄典の授与は天皇の国事行為として行われることとされ、天皇と国民を結ぶ役割を果たしている。
そもそも栄典は、国家・公共への功労を国が評価し、その栄誉を称えるものであり、社会に対して、国家・公共の観点から評価されるべきものは何かを示すという役割を果たしている。
松尾さんは、「これは「新・金鵄勲章」への匍匐前進だ」と言われました。
part2
「自衛隊法施行令等の一部を改正する政令」を読む
はじめに
まず、自衛隊法には三つの「地域」が出てくる。
@ 武力攻撃予測事態下での「展開予定地域」(第七十七条)@の「展開予定地域」では防御施設の構築措置をとれる。
A 武力攻撃事態下での「当該自衛隊員の行動に係る地域」(第百三条第一項)
B 武力攻撃事態下での「当該自衛隊員の行動に係る地域以外の地域」(第百三条第二項)
Aの「一項地域」では管理・保管命令が出せるが、従事命令は出せない…というのは戦闘要員以外、人がいないということが前提となっている=「戦闘地域」。
Bの「二項地域」=「後方地域」では、管理・保管・従事命令が出せる。例えば野戦病院が置かれるということも想定があるだろう。
「一項地域」と「二項地域」とは、状況の推移と共に時間で範囲が動き、変わっていくもの。
「武力攻撃事態」下で登場するこれら二つの地域と、「武力攻撃予測事態」下での「展開予定地域」との関係がどうなるのかについて、政府は答えていない。議員は誰もここを質問していない。
★ 政令では、この三つに関して全部のっぺりと書かれているので、一体どの「事態」での、どの「地域」の規定であるかを読み分けることは大切。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆「地域」の周知
三つの地域については、「一項地域」・「二項地域」は総理大臣が、「展開予定地域」は防衛庁長官が、それぞれどこの範囲かを公示して、国や地方公共団体の関係機関やその地域住民に、速やかに周知させることになっている。(政令第百七条・政令第百八条の二)任務の格付け
土木工事等の受託の取消等について、取消となるのがどういう場合かという規定に、新たに「自衛隊法七十七条の二」を加えている。つまり、「武力攻撃予測事態」に「展開予定地域」で防御施設を構築する措置を命ぜられた場合というのが加わった。この任務に、より高度の公共性がある、という政府認識の位置付けを明確にしたもの。(政令第百二十五条)要請するのは誰か
誰が、土地等の使用・立木等の移転若しくは処分・物資の収用・いわゆる保管命令・従事命令の要請を行うことができるのか、その範囲を定めたもので、防衛出動を命ぜられた者のうちから十二の官職が挙げられている。一 方面総監これらの役職は直接戦闘要員とは違い、将官で、幕僚組織をもっている。彼らが都道府県知事に要請を出してくる。戦闘要員はそういった手続き云々には、かかずらわうことなく任務遂行できるといった態勢が浮かぶ。(政令第百二十七条)
二 師団長
三 旅団長(以上、陸上自衛隊)
四 自衛艦隊司令官
五 航空集団司令官
六 地方総監(以上、海上自衛隊)
七 航空総隊司令官
八 航空支援集団司令官
九 航空方面隊司令官
十 航空混成団司令
十一補給統制本部長(陸上自衛隊)
十二補給本部長(海上自衛隊、航空自衛隊)
要請の手続き
要請の手続きは文書で行うが、事態が緊迫してそれが出来ない場合は口頭若しくは電話でできる。ただし、事後に文書を提出するとなっている。(政令第百二十八条)公用令書の交付
これらの要請を受けるのは都道府県知事で、公用令書は都道府県知事の命で対象者に交付する。 相手方の所在が知れない場合や、遠隔の地にいるなどで公用令書を交付するのが著しく困難な場合、交付を後まわしにできる。(政令第百三十二条)従事命令を取消す場合
また、業務従事命令を受けた者が身心の故障その他の事由により業務に従事することができない旨を申し出た場合、相当の理由があると認めるときは、都道府県知事が従事命令を取消すこと、と書かれている。(政令第百三十四条)
公用令書・公用取消令書の書式は(政令第百三十六条)に。管理命令の対象となる施設
管理命令の対象となる施設は、「武力攻撃事態」での「第一項地域(戦闘地域)」で管理する施設の範囲、として5項目挙げられている(政令第百二十九条)。
自衛隊法第百三条第二項では「第二項地域(後方地域)」でも管理・保管命令が出せるとなっているけれども、この政令には二項地域は含まれていない。一 自動車整備工場
二 造船所(ドック又は引揚船台に限る)
三 港湾施設(係留施設及びこれに付帯するにさばき施設に限る)
四 航空機又は航空機用機器を整備するための施設(飛行場にあるもの又は飛行場に隣接するものに限る)
五 自動車、船舶又は航空機に給油するための施設
これに条文の
六 病院、診療所が加わる。従事命令対象者
従事命令対象者は、 「第二項地域(後方地域)」での従事命令対象者として、8項目挙げられている(政令第百三十条)。一 医師、歯科医師又は薬剤師自衛隊法・第百三条第八項では、「公用令書に掲げなければならない事項」として、公用令書の交付を受ける者の氏名(法人にあっては、名称)、及び住所となっているので、上の一・ニは法人名あるいは個人名ということ。
二 看護師、準看護師、臨床検査技師又は診療放射線技師
この二項目は法人でなく個人。国家資格保持者。一は開業資格があり、二は無い。
三 建設業法の規定による建設業者
四 鉄道事業法の規定による鉄道事業者
(旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律第一条第三項に規定する会社を除く)
(ここでいわれている「規定業者」とは「北海道旅客鉄道株式会社」・「東日本旅客鉄道株式会社」・「東海旅客鉄道株式会社」・「西日本旅客鉄道株式会社」・「四国旅客鉄道株式会社」・「九州旅客鉄道株式会社」の六つで、括弧内で「除く」、とされているのは、鉄道事業者が「国土交通大臣の認可を受けて、自動車運送事業その他の事業を営むことができる」とある、それを指しています。)
五 道路運送法の規定による自動車運送事業者
六 海上運送法の規定による船舶運航事業者
七 港湾運送事業法の規定による港湾運送事業者
八 航空法の規定による本邦航空運送事業者
従事命令以外の公用令対象者
「第一項地域(戦闘地域)」「第二項地域(後方地域)」両方で公用令書を交付すべき相手方が七項目挙げられている。(政令第百三十一条)一 施設の管理 管理する施設の所有者及び占有者
二 土地、家屋または物資の使用 使用する土地、家屋または物資の所有者及び占有者
三 取り扱い物資の保管命令 物資を保管すべき者
四 物資の収用 収容する物資の所有者及び占有者
五 業務従事命令 業務に従事すべき者
六 立ち木等の移転又処分 移転し又は処分する立ち木等の所有者
七 家屋の形状の変更 家屋の所有者
損失補償は
「武力攻撃事態」での「第一項地域(戦闘地域」と「第二項地域(後方地域)」で生じた損失について都道府県知事へ、また防衛庁長官権限で命令が出された場合は長官に対して、申請書を出すこととなっている。
しかし…政府の行為として能動的に、令書によって生じたところについては補償するということしか書かれていない。敵・味方の戦闘によって生じた損失に関しては、いっさい補償の対象とはしていない。(政令第百八条の三・政令第百三十七条)従事命令による業務従事者には賃金が支払われる
「武力攻撃事態」での「第二項地域(後方地域)」で従事命令による業務に応じた場合、弁償の規準が五項目挙げられている。
医師等に対しては時間手当支給があり、その支給額は一般職の国家公務員医師等の給与の例に準じ、長官が定めることになっている。旅費、その他通常用する費用も支給される。
法人に対しては業務に従事するための通常要する費用が支給される。(政令第百三十八条)申請しなくてはお金は戻らない
損失補償・実費弁償共に、公用令書の交付を受けた者が命令者に申請書を提出するという手続きを経なければならない。(政令第百三十七条・第百三十九条)従事命令による業務で怪我をしたり死亡したら
従事命令による業務に応じた者が、死亡・負傷・疾病・障害などの状態となったとき、本人又は遺族、又は被扶養者が、その損害補償の申請書を命令者である都道府県知事に提出することが書いてある。
補償額を決定するのは都道府県知事。しかしここでも、敵・味方の戦闘によって生じた損失に関しては、いっさい補償の対象とはしていない。(政令第百四十一条)その他必要な事項は内閣府令で定める
これは閣議決定で、国会を通す必要がない。(政令第百四十二条)「展開予定地域」で準用
「武力攻撃予測事態」での「展開予定地域」で、@土地を使用することの要請をする場合に準用する政令の条項を規定している。(政令百四十四条)
A立木等の移転もしくは処分すること適用除外・特例についての追加部分は地面の話ばかり
これらを追加した政令では、なんで地面の話ばかり書いてあるかというと、海も空もすでに縛りがなく自由に行動できるから。★ これら政令に関しては、防衛庁のホームページに新旧対照表が載っているので参照できます。
陸の場合はまだ法で縛られていたので、ここで加えられている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆さいごに
従事命令で法人に対して公用令書が出されるものに関しては、会社は受けるだろう。そこから先の社員に向けては、あくまでも社内の業務命令として課せられる。法的には、従事命令拒否への罰則はない。けれどもその時に嫌だといえば、会社内で何が起きるかはわからない。
従事命令は、タダでやらせるわけではなく、代価が払われるから会社には金が入る。戦争の場合にも会社は儲かるというシステムがある。補償規定のなかった戦前の国家総動員法の下ですら資本は儲かった。
どうしたら止められるか。
一つには、皆逃げちゃった場合、戦争にならない。運転手も、船員も、皆逃げてしまえば成り立たない。
もう一つは、会社がNOといっても罰則はないわけだから、NOといっても、その会社が潰れないというような社会的な構造、社会的な環境があれば、組合として会社にNOと言わせることができる。
そのときの社会の力関係でもって、圧倒的世論が戦争反対となれば、組合も反対、自治体も反対となった場合に、それを押しきってまで政府は戦争ができるのかと言うことになる。
「有事法制を発動させない」「反対だ」とよくいうが、具体的にはどうするのか。
政府は政令で、例えば個人について日当はどうするとか、業者についても対価を支払うとか、ここまで具体的に考えている。
戦争に反対というけれど、ここまで具体的に、反対の、なにか手立てを考えて運動しているのか。
こういうふうに政令のところまで具体的にものを考えていくということは、同時にこのレベルで、じゃあ私達は何をやらなくちゃいけないかを考えるということになるだろう。
有事法制を発動させない、というのは、やはり受身で、常日頃からどう平和を構築し、平和を闘いとっていくのかを考え、戦争をさせない力関係をつくっていく能動的努力が求められているのだと思う。
戦争がない状態を「平和」だと考えるのはどうか?
やはり「平和」というものは闘いとるものだという能動性が必要だ。
じゃぁどうするか?
これはやはりディスカッションして、英知をあつめ、有効なてだてを考え、実行していく以外ない。
この問題で「教科書」はないことを肝に銘じることが必要だ。
「戦争の技術は平和の技術をはるかに陵駕している」という言葉があるが、そのとおりで、われわれは平和創造・平和構築の技術を、自らの力でつくりだしていく以外ない。
鍵はやはり日本人一人一人がどう思うか、どう動くかにあるのでは。
最後はやはり国内の自分たちがどうする、という事からしか変わらないだろう。
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