パンケーキの国で 〜子供たちと見たデンマーク〜 ◆ 2

アスコウホイスコーレ

自由な雰囲気、日本にはない『世界』

東京新聞:1997年12月16日掲載

アスコウの町の公立学校の庭(リンゴの庭と呼ばれる)で談笑する先生と子供たち

コペンハーゲンから特急で4時間弱、駅から3キロ。 最初の1年余りを過ごしたアスコウホイスコ−レは、麦畑と菜の花畑の広がる中にあった。 遠くに風車も見える。 ここは、19世紀末、世界で初めて風車発電の実用化に成功したフォルケホイスコーレ(民衆大学)だ。

時は春。 空は青く、ひねもす小鳥がさえずり、花は咲き乱れる。 木立の中を、キジがゆうゆうと歩き、芝生の上を野ウサギが跳ねて行く。

ホイスコ−レに、18歳から89歳までのさまざまな人が70人ほど集まり、3ヶ月の共同生活が始まった。 外国人も10数人混じっていた。私は、絵画、演劇、コーラス、デンマーク語などの授業をとった。

上の子供たちは、アスコウの町の公立学校に通うことになった。 レンガ造りの、かわいい学校だ。

ところで、よく誤解されてしまうので、ここで書いておきたいのだけれど、私は「不登校」を「克服」させたい、と思って子供と一緒にデンマークへ行ったのではない。 子供たちに期待したことは、ただ、いろいろな考え方に出合い、違う世界があることを感じてくれるといいな、ということだった。

◎ ◎ ◎

子供たちもどんなところか好奇心を持っていたようだったし、とりあえず地元の学校に行ってみたら、ここに住む人たちの考え方に触れることができるかな、と思った。 いつものことだけれど、うまくいかなければ、その時にまた考えよう、という気持ちだった。

学校で、教室を見てみた。前に黒板があり、机が並び、先生が生徒の前に立って授業する光景は,日本の学校と変わらない。 目に見える違いは、標語や、「がんばり表」の類がなく、人数が少ないことと、のんびりした雰囲気だろうか。

ところが、通い始めた子供たちに聞いてみると、口をそろえて「日本の学校とはぜんぜん違う」という。 「朝会がない」 「起立、礼がない」 「絵の時間に、先生が口を出さないから、好きなように描ける」 「木工の時に、自分が作りたいものを作れる」 「音楽の時は、何を歌いたいか、みんなで決めて歌う」 「算数の時、みんな間違えても平気みたい」

「体育も、楽しい」。 体育は、低学年では鬼ごっこのような集団遊びや、ボール遊びをするようだ。 高学年は、サッカー、バスケットボール、バドミントンなどの球技をすることが多い。 それも、やりたい種目をそれぞれが選んでやるという。

水泳も、「日本だと、みんなでいっしょに水に入って、どれだけ泳げるとか、誰が速いとか、何級だとかやるから、嫌だったけど、いっぱい遊べるから、好き」 「浮きをつけてもいいし、遊び道具も借りられる。泳いでる子や、遊んでる子や、飛び込みをやる子、いろいろ」.

後に、「泳げない子もいるけれど、みんな水に入るのが大好きです。それが一番大事。好きなら、そのうち泳げるようになります。 嫌いになってしまったら、一生泳ごうとしなくなる」 という先生の言葉を聞いて、こういう考え方が、向上させることよりも、まず楽しめること、好きになることを大切にするやりかたの基にあるのだろう、と思った。

伊藤美好(いとう みよし)

※ 東京新聞の了解を得て、インターネットに公開しています。

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