日本国政府に対する

国連子どもの権利委員会の最終見解

1998年6月

(外務省仮訳)

CRC/C/15/Add.90
1998年6月
原文:英語

児童の権利に関する委員会
第18会期

条約第44条の下での締約国により提出された報告の審査
児童の権利に関する委員会の最終見解:日本

1.委員会は、日本の第1回報告(CRC/C/41/Add.1)を1998年5月27日及び28日に開催された第465回〜467回会合(CRC/C/SR.465 to 467)において審査し、以下の最終所見を採択した。

A. 序 論

2.委員会は、締約国に対し、児童の権利に関する委員会により設定されたガイドラインに従った第1回報告及び質問リスト(CRC/C/Q/JAP.1)に対する書面回答が提出されたことに謝意を表明する。委員会は、報告の審査の際に代表団により提供された追加情報及び締約国の複数省庁からなる代表団との建設的な対話に留意する。

B. 肯定的要素

3.委員会は、締約国による法改革の分野における努力に留意する。委員会は、摘出でない子のための児童手当の権利を全ての未婚の母に保障することを目的とした1997年採択の児童福祉法改正及び1998年5月の決定を歓迎する。委員会は、また、日本国籍の児童を養育する外国籍の母親の在留資格に関し、1996年に出入国管理のルールが改定されたことに留意する。

4.委員会は、締約国が、拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰の禁止に関する条約の批准について現在検討している旨の代表団からの情報を歓迎する。

5.委員会は、条約第12条の重要な側面を実現するための手段として「子ども国会」の召集という締約国のイニシアティヴを歓迎する。

C. 主な懸念事項

6.委員会は、締約国による条約第37条(C)への留保ならびに第9条1及び第10条1に関する解釈宣言を懸念をもって留意する。

7.委員会は、児童の権利に関する条約が国内法に優先し国内裁判所で援用できるにもかかわらず、実際には、通常、裁判所が国際人権条約一般、就中、児童の権利に関する条約をその判決の中で直接に適用していないことを懸念をもって留意する。

8.総務庁及び青少年対策推進会議の設立について留意しつつも、委員会は、それにもかかわらず、条約が扱う分野において権限のある各種政府部局間及び中央・地方政府間の効果的な調整を確保するためには、それらの権限が限られており、とられた措置が不充分であることを懸念する。委員会は、これが、政府の行動における調整の欠如のみならず不整合にも帰着し得ることを懸念する。

9.委員会は、児童からの不服の登録に関するデータ及び児童の状況に関するその他の情報、特に障害児、施設に入っている児童及び国民的、種族的少数者に属する児童を含む最も脆弱な集団に属する児童に関するものを含め、際も区別の統計データを収集するための措置が不充分であることを懸念を持って留意する。

10.委員会は、児童の権利の実施を監視するための権限を持った独立機関が存在しないことを懸念する。委員会は、「子どもの人権専門委員」という監視システムが、現在の形では、児童の権利の効果的な監視を十分に確保するために必要な政府からの独立性並びに権限及び力を欠いていることに留意する。

11.締約国の努力について認識しつつも、委員会は、条約の原則と規定についての認識、特に条約が権利の完全な主体としての児童の概念に重要性を置いていることについての認識を、社会の全ての部分において、児童及び成人の間で同様に、広く普及し促進するためにとられた措置が不充分であることを懸念する。委員会は、また、条約がいずれの少数言語でも入手可能とされていないこと、及び、児童の権利に関する訓練を関連の職業集団に提供するためにとられた措置が不十分であることを懸念する。

12.児童の権利に関する問題におけるNGOの積極的な参加を評価をもって留意しつつも、委員会は、政府とNGOの現在の協力段階においては、市民社会の知識と専門性が適切に活用されておらず、それが条約の実施の全ての措置におけるNGOの不十分な参加に繋がることを懸念する。

13.委員会は、差別の禁止(第2条)、児童の最善の利益(第3条)及び児童の意見の尊重(第12条)の一般原則が、とりわけアイヌの人々及び韓国・朝鮮人のような国民的、種族的少数者に属する児童、障害児、施設内の又は自由を奪われた児童及び摘出でない子のように、特に弱者の範疇に属する児童の関連において、児童に関する立法政策及びプログラムに十分に取り入れられていないことを懸念する。委員会は、韓国・朝鮮出身の児童に影響を与えている高等教育施設へのアクセスにおける不平等、及び、児童一般が、社会の全ての部分、特に学校制度において、参加する権利(第12条)を行使する際に経験する困難について特に懸念する。

14.委員会は、法律が、条約により規定された全ての理由に基づく差別、特に出生、言語及び障害に関する差別から児童を保護していないことを懸念する。委員会は、摘出でない子の相続権が摘出子の相続権の半分となることを規定している民法第900条4項のように、差別を明示的に許容している法律条項、及び、公的文書における摘出でない出生の記載について特に懸念する。委員会は、また、男児(18歳)とは異なる女児の婚姻最低年齢(16歳)を規定している民法の条項を懸念する。

15.委員会は、児童のプライバシーの権利、特に、家庭、学校及び養護その他の施設におけるこの権利を保障するために締約国によりとられている措置が不十分であることを懸念する。

16.条約第17条に照らし、委員会は、印刷・電子・視聴覚メディアの有害な影響、特に暴力及びポルノグラフィーから児童を保護するため導入された措置が不十分であることを懸念する。

17.条約第21条に照らし、委員会は、国際養子縁組の場合における児童の最善の利益を確保するために必要な保護手段が欠けていることを懸念する。

18.委員会は、施設に入っている児童の数、並びに、特別な援助、養護及び保護を必要とする児童のための家庭環境に代わる手段を提供するために設けられた枠組が不十分であることを懸念する。

19.委員会は、家庭内における、性的虐待を含む、児童の虐待及び不当な扱いの増加を懸念する。委員会は、児童の虐待及び不当な扱いに関する全ての事案が適切に調査され、加害者に制裁が加えられ、とられた決定について周知されることを確保するための措置が不十分であることを懸念をもって留意する。委員会は、また、虐待された児童の早期の発見、保護及びリハビリテーションを確保するための措置が不十分であることを懸念する。

20.障害児に関して、委員会は、1993年の障害者基本法に定められた諸原則にもかかわらず、これらの児童の教育への効果的なアクセスを確保し、社会への十分な包摂を促進するために締約国によりとられている措置が不十分であることを懸念をもって留意する。

21.先進的な保健制度及び非常に低い乳児死亡率を考慮に入れつつも、委員会は、児童の間の自殺数が多いこと、この現象を防止するためにとられた措置が不十分なこと、及び、学校外を含めプロダクティヴ・ヘルス教育やカウンセリングサービスへの十代の児童によるアクセスが不十分なこと、青少年の間でHIV/AIDSが発生していることを懸念する。

22.非常に高い識字率により示されているように締約国により教育に重要性が付与されていることに留意しつつも、委員会は、児童が、高度に競争的な教育制度のストレスにさらされていること及びその結果として余暇、運動、休息の時間欠如していることにより、発達障害にさらされていることについて、条約の原則及び規定、特に第3条、第6条、第12条、第29条及び第31条に照らし懸念する。委員会は、更に、登校拒否の事例がかなりの数にのぼることを懸念する。

23.委員会は、条約第29条に従って、人権教育を学校のカリキュラムに体系的な方法で導入するために締約国によりとられた措置が不十分であることを懸念する。

24.委員会は、学校における暴力の頻度及び程度、特に体罰が幅広く行われていること及び生徒の間のいじめの事例が多数存在することを懸念する。体罰を禁止する法律及びいじめの被害者のためのホットラインなどの措置が存在するものの、委員会は、現行の措置が学校での暴力を防止するためには不十分であることを懸念をもって留意する。

25.売春又はポルノにおける児童の搾取的使用に関与した国民に対する刑事罰を導入するための、性的搾取に関する法律案に留意し、また、1996年のストックホルムにおける児童の商業的性的搾取に反対する世界会議のフォロー・アップとして開催された会議に留意しつつも、委員会は、児童の売春、児童のポルノグラフィー及び児童の売春を防止し、これと闘うための包括的な行動計画が欠けていることを懸念する。

26.委員会は、締約国において児童に対してますます影響を与えている薬物及びアルコールの濫用の問題に対処するためにとられている措置が不十分であることを懸念する。

27.少年司法の運営に関する状況、並びに、その状況と条約の原則、規定就中第37条、第40条及び第39条、及びその他の関連する基準、たとえば、少年司法運営に関する国連最低基準規制(北京ルールズ)、少年非行防止のための国連ガイドライン(リヤド・ガイドライン)、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則との適合性は、委員会にとって懸念事項である。特に、委員会は、独立した監視及び正式な不服申立手続が不十分であること、最後の手段としての拘禁及び裁判前の拘禁の使用に対する代替手段が不十分であることを懸念する。代用監獄の状態も懸念事項である。

D.提案及び勧告

28.1993年のウィーン宣言及び行動計画に照らし、委員会は、締約国に対し、第37条(C)への留保及び解釈宣言をそれらの撤回の観点から見直すよう勧奨する。

29.国内法における条約の地位に関し、委員会は、締約図に対し、児童の権利に関する条約及びその他の人権条約が国内裁判所において援用された事例についての詳細な情報を次回定期報告において提供するよう勧告する。

30.委員会は、締約国に対し、児童に関する包括的政策 を発展させ、条約の実施の効果的な監視及び評価を確保するために、国家及び地方の双方のレヴェルにおいて、児童の権利に関連する各種の政府メカニズム間の調整を強化するよう勧告する。

31.委員会は、締約国に対し、条約の全ての分野に取組むために、また、一層の行動が必要とされる分野の確認及び達成された進歩の評価を促進するために、データ収集のシステム及び適切な科目別の指標の確認を発展させるための措置をとるよう勧告する。

32.委員会は、締約国に対し、現在の「子どもの人権専門委員」制度を制度的に改良し拡大することにより、あるいは、オンブズパーソン又は児童の権利委員を創設することにより、独立の監視メカニズムを確立するため、必要な措置をとるよう勧告する。

33.委員会は、条約の規定が、児童及び成人の双方に広く知られ理解されることを確保するためにー層大きな努力が締約国により払われるよう勧告する。警察の構成員、治安部隊及びその他の法執行官、司法職員、弁護士、裁判官、全ての教育段階の教師及び学校管理者、ソーシャルワーカー、中央または地方の行政官、児童養護施設職員、心理学者を含む保健・医療職員を含め、全ての職業集団に対し、児童の権利に関する体系的な訓練及び再訓練のプログラムが組織されるべきである。権利の完全な主体としての児童の地位を強化するため、委員会は、条約が全ての教育機関のカリキュラムに取り入れられるよう勧告する。委員会は、更に、必要な時には翻訳することにより、条約全文を少数言語で入手可能とするよう勧告する。

34.委員会は、更に、締約国に対し、条約の原則及び規定を実施し監視するにあたり、NGOと緊密に交流し協力するよう勧奨する。

35.委員会は、条約のー般原則、特に差別の禁止(第2条)、児童の最善の利益(第3条)及び児童の意見の尊重(第12条)のー般原則が、単に政策の議論及び意思決定の指針となるのみでなく、児童に影響を与えるいかなる法改正、司法的・行政的決定においてもまた、全ての事業及びプログラムの発展及び実施においても、適切に反映されることを確保するためにー層の努力が払われなければならないとの見解である。特に、嫡出でない子について存在する差別を是正するために立法措置が導入されるべきである。委員会は、また、韓国・朝鮮人及びアイヌの人々を含む少数者の児童の差別的取扱いが、何時、何処で起ころうと、十分に調査され排除されるように勧告する。更に、委員会は、男児及び女児の婚姻最低年齢を同一にするよう勧告する。

36.委員会は、締約国に対し、児童のプライバシーの権利、特に家庭、学校及び養護その他の施設におけるこの権利を保障するため、立法的なものを含め追加的な措置を導入するよう勧告する。

37.委員会は、締約国に対し、印刷・電子・視聴覚メディアの有害な影響、特に暴力及びポルノグラフィーから児童を保護するため、法的なものを含め全ての必要な措置をとるよう勧告する。

38.委員会は、締約国に対し、国際養子縁組の場合において児童の権利が十分に保護されることを確保するために必要な措置をとり、また、国際養子縁組に関する児童の保護及び協力に関する1993年のへーグ条約の批准を検討するよう勧告する。

39.委員会は、締約国に対し、特別な援助、養護及び保護を必要とする児童のための家庭環境に代わる手段を提供するために設けられた枠組みを強化するための措語をとるよう勧告する。

40.委員会は、締約国に対し、家庭内における、性的なものを含む、児童の虐待及び不当な取扱いの事案に関する詳細な情報及び統計を収集するよう勧告する。委員会は、この現象についての理解を促進するために、児童の虐待及び不当な取扱いの事案が適切に調査され、加害者に制裁が加えられ、とられた決定が周知きれるよう、また、その達成のために、児童にとって容易に利用でき親しみやすい不服由立手続が確率されるよう勧告する。

41.障害者の機会均等化に関する標準規則(総会決議48/96)に照らし、委員会は、締約国に対し、現行法の実際的な実施を確保するためにー層の努力を払い、障害児の施設への入所に代わる措置をとり、障害児に対する差別を減らすための啓発キャンペーンを考慮し、障害児の社会参加を奨励するよう勧告する。

42.委員会は、締約国に対し、青少年の間における打殺及びHIV/AIDSの発生を防止するために、情報の収集及び分析、啓発キャンペーンの実施、リプロダクティヴ・ヘルスに関する教育及びカウンセリング・サービスの確率を含め、全ての必要な措置をとるよう勧告する。

43.締約国に存在する高度に競争的な教育制度並びにそれが児童の身体的及び精神的健康に与える否定的な影響に鑑み、委員会は、締約国に対し、条約第3条、第6条、第12条、第29条及び第31条に照らし、過度なストレス及び登校拒否を予防し、これと闘うために適切な措置をとるよう勧告する。

44.委員会は、締約国に対し、条約第29条に従って、人権教育を学校のカリキュラムに体系的な方法で含めるために適切な措置をとるよう勧告する。

45.特に条約第3条、第19条及び第28条2に照らし、委員会は、とりわけ体罰及びいじめを除去する目的で、学校における暴力を防止するために包括的なブログラムが考案され、その実施が綿密に監視されるよう勧告する。加えて、委員会は、体罰が家庭及び養護その他の施設において法律によって禁止されるよう勧告する。委員会は、また、代替的な形態の懲戒が、児童の人間としての尊厳に合致し条約に適合する方法で行われることを確保するため、啓発キャンペーンが行われるよう勧告する。

46.委員会は、締約国に対し、1996年の児童の商業的性的搾取に反対する世界会議の結果に沿って、児童の買春、児童のポルノグラフィー、及び児童の売買を防止し、これと闘うための包括的な行動計画を策定し実施するよう勧告する。

47.委員会は、締約国に対し、児童の間における薬物濫用を防止し、これと闘うための努力を強化し、学校の内外における広報活動を含め全ての適切な措置をとるよう勧告する。委員会は、また、締約国に対し、薬物濫用の被害児のためのりハビリテーション・フログラムを支援するよう勧奨する。

48.委員会は、締約国に対し、条約及び少年司法の分野における他の国連の基準、例えば、北京ルールズ、リヤド・ガイドライン、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則の原則及び規定に照らして、少年司法制度の見直しを行うことを考慮するよう勧告する。拘禁の代替的措置の確立、監視及び不服申立手続、代用監獄における状況に特に注意が払われるべきである。

49.最後に、委員会は、条約第44条6に照らし、関連するサマリー・レコード及び委員会により採択された最終見解とともに、締約国により提出された第1回報告及び書面による回答が広く国民一般に入手可能とされ、同報告が刊行されるよう勧告する。このような幅広い配布は、政府、議会、及び、関心を有するNGOを含むー般国民における条約に関する議論及び認識並びにその実施及び監視を引き起こすはずである。

(仮訳注:訳文中の「締約国」は、日本を指す。)



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